『吟醸王国しずおか』の制作がはかどらず、外で人にお会いするたびに「いつ完成?」と訊かれ、心苦しい毎日が続いています。事情を察し、「今からが、ものすごいハードルだと思う。ふんばれ!としか言えないけど…」と慰めてくれる人もいますが、自主制作で作品づくりに取り組むクリエーターにとっては、共通の試練かもしれません。
進展しないせいか、最初は興味を持ってくれたのに、次第に離れて行く人もいて・・・だからこそ、辛抱強く手を差し伸べてくれる支援者の存在が一層ありがたく感じられます。今年はとくに、制作支援金の募金活動の場を、多くの方が用意してくれました。本当にありがとうございます。
ところで、県内では年末12月5日(日)に楽しい企画を進行中です。詳細が決まり次第ご案内しますが、プログラムの中で、『吟醸王国しずおか』HP上に連載中の『読んで酔う静岡酒』をプロの語り部の力をお借りし、まさに“読んで(聴いて)酔う”ライブにしちゃおう!と考えています。
これは、私が本編映像の構成づくりやナレーション・テロップ原稿の執筆に悩んでいた時に思いついた実験というのか、2本のパイロット版では編集と音楽の効果を試すことができたので、今度は「朗読ライブ」のかたちを借りて、語りの説明や文字の説明の配分や、語りがどんな効果をもたらすのか試してみようと。
幸い、本編ナレーションをお願いする予定の「語り部」さんにも協力していただけることになりました。ぜひみなさまも、この大いなる「実験」に立ちあっていただき、映画制作の過程を疑似体験していただければ、と思っています。
現在『読んで酔う静岡酒』で紹介した静岡の蔵元物語とあわせ、酒の名著名文を集めています。不幸なことに私も含め、周りには、“読んだだけじゃ酔わない、飲まなきゃ酔わない”酒徒が多いため(笑)、みなさまから広く募りたいと思います。
たとえば、博学で知られる浜松のSさんからは、倉橋由美子著『城の中の城』の一節を紹介してもらいました。
「林檎畑を通ってきた風の匂ひがする。それとも半輪の月を浮かべて溶かしたやうな水と言うか、とにかく」と耕一君はもう一度口に含んでから言った。「これは酒の匂ひがしなくていくらでも飲める」
「お米を玉のやうに磨いて、特別の水で特別に造ってたまたま見事にできたのださうです」
「吟醸」と桂子さんが言った。
林檎畑を通ってきた風の匂ひ・・・なんと粋な表現でしょう。コピーライターのくせに、馬鹿の一つ覚えみたいに「フルーティー」としか言えなかった自分が恥ずかしくなりました
また東京のTさんからは、私も好きな井伏鱒二訳の漢詩『勧酒』を推薦していただき、改めて井伏鱒二の『厄除け詩集』をじっくり読んで、しみじみ酒杯を傾けました・・・。
勧君金屈巵 満酌不須辞 花発多風雨 人生足別離
コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
こんな感じで、本当に読んだだけで心地よく酔えそうな名文、ご存知の方はぜひご推薦ください。メールはこちらまで!
info@ginjyo-shizuoka.jp