杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

消費者の満足度を考える

2010-10-25 20:11:27 | 地酒

 先週20日に東京で、静岡県の川勝知事と、かっぱえびせんやポテトチップスでお馴染み、日本を代表するスナック菓子メーカー・カルビー㈱相談役の松尾雅彦さんの対談を取材しました。
 

 最初、なんで県知事が東京の菓子メーカーと?と思いましたが、松尾さんは『日本で最も美しい村連合』というNPO活動の旗振り役をされていて、馬鈴薯産地として縁のあった北海道美瑛町など、全国で過疎化にめげず、自然景観や生活文化を大切に守ろうと頑張っている町や村を「美しい村」に認定し、活動をサポートされているんですね。

 

 

 「美しい村」運動というのはもともと80年代、フランスやイタリアで合併や都市化の波を受けて美しい農村がズタズタに開発されていくのに危機感を覚えた人々が始めた全世界的なムーブメントで、松尾さんは98年のフランスワールドカップに日本サッカー協会オフィシャルスポンサーとして川渕会長らに帯同して現地に行かれた際に、その運動を知り、美瑛町長に話し、日本でもやろうと立ちあがったそうです。

 

 2005年に全国7町村でNPOを立ち上げ、現在は39まで参加自治体が広がったそうです。参加するには、景観を損なう商業看板を立てないとか、地元の生活文化や伝統芸能の保護に努めているとか、いろいろ条件があるようで、審査をパスしないとメンバーに入れてもらえないとか。静岡県の参加自治体は今のところゼロですが、「食と農の6次産業化」に力を入れる川勝知事も身を乗り出し、さかんに合槌を打っていました。

 私もノートを取りながら、いちいちうなずくことばかり。大いに勉強させてもらいました。たとえば―

 

日本の町おこし村おこしのやり方は違うのではないか。日本ではまず農業を活性化させればなんとかなるという発想で、アグリツーリズムのような体験型メニューに力を入れるが、そもそも農業は生産活動で、観光は消費活動。ふだんコツコツ働いて休みがとれたらパーっと楽しむ・・・そういう都会の消費者にコツコツ生産活動をさせるよりも観光が持つ消費の力を伸ばすべき。

 

旅行者は旅先でアメニティのよさを体験しないとリピーターにはならない。そのため食と泊の内容を充実させる必要がある。今、日本の大都会には世界中のありとあらゆる美食が集結し、都会の人は食情報に非常に敏感。そういう流れに農村がついていけていない。フランスやイタリアでもその点を考え、腕のいい一流シェフに田舎で出店させるなど食・泊のクオリティを高める努力している。

 

 

カリフォルニアワインを世界的に有名にしたのはナパバレーのロバート・モンダヴィ。彼は1966年に父から蔵を継承し、美味しいフランス料理店づくりに力を入れた。農村の食生活が豊かでないといいワインは作れないと考えたから。いい店を作ったことが、多くの人をひきつけ、結果的にブドウ栽培やワイン醸造の質を向上させた。

 
 
 
 
 

 

 

 話を聞いていて、ふと地酒イベントの食事のことを思い出しました。昨年沼津で開催した静岡県地酒まつりでは、一昨年までの着席フルコース料理ではなく、立食スタイルで客はワンコインでつまみを買うという方法に変え、料金はリーズナブルになって参加者が増えたものの、ブースで酒をもらってつまみを屋台で買って両手がふさがり、しかも飲み食いするスペースもなく、一昨年までの参加者は戸惑っていました。

 
 私がそのことを含め、イベントとしての問題点をブログで指摘したら、県酒造組合理事会から抗議文が来て、参加者にとってのアメニティを大切にしてこそのイベントではないかという自分の思いが通じず、哀しい思いをしました。

 
 

 今年、静岡で開催した地酒まつりは、ブログ事件以来、組合から排除扱いされている私がノコノコ行っても・・・と思い、参加を遠慮し、後日、常連参加している人に訊いたら「去年と同じだった。飲食スペースが足りなくて、土足で上がるステージに酒器や皿を置かざるを得ないお客さんもいて気の毒だった」「若い人が増えたのはいいけど、自分の酒量がわからずトイレでつぶれて戻している人がかなりいた。あんな風景は今までの地酒まつりでは見たことがなかった」とのこと。

 
 もちろん大多数のお客さんは、“2000円で県の全銘柄が飲み放題こそが最大のアメニティ”と実感されたと思いますが、みなさん全員、ホントに気持ちよく飲んで満足して帰っていただけたのか、なんだか心配になりました。よけいなお世話だと組合からまた文句を言われそうですが・・・

 
 

 

 

 20日の知事対談を翌21日に書き上げて、ホッと一息。22日夜は清水で『駿河路酒メッセ』という静岡市清水区の蔵元によるイベントがありました。

 

 私、例年はありがたいことに招待券を頂戴するのですが、今年はまったく音沙汰なく、料理を担当するという蒲原の料理店「よし川」さんから、メニューの相談をいただいて、日時と場所を知った次第。知り合いの由比の桜エビ加工会社の社長さんからも「招待されてるんだろ、一緒に飲もうな」と声をかけられたのに返事のしようがなく、吟醸王国しずおかノミの市の件で正雪さんにお願いにあがった際、事務所にチラシが貼ってあったので「まだチケットは買えますか?」と訊ねたら売り切れだと言われて、自分から招待券来ないんですけど・・・な~んて言いだせるはずもなく、そのままになってしまいました。22日、締切明けで空いていたのに「やっぱり排除されてるのか」と落涙・・・

 

 

 今日(25日)、別件でお会いしたアナウンサーの國本良博さんが22日に参加したと聞いて、よし川さんの料理のことが気になって訊いたところ、「今まで参加した地酒イベントの中で、料理は一番よかったんじゃないかな」と絶賛していただきました。酒の事では、私につねに本音を話してくれる國本さんだけに、本当に我が事のように嬉しかった。よし川さん、よかったですね、苦労された甲斐がありましたよ

 

 

 食にしろ酒にしろ、一次・二次・三次産業を掛けたり足したりして「六次化」を目指す時、一次や二次が、一番二番に優先されるわけではない。むしろ、三次産業とその先につながっている消費者の声が優先されるべきではないかと、カルビーの松尾さんも指摘しておられました。

 
 

 地域において、作り手に多くの制約や事情があるのは当然です。「理解してくれる人だけに食べてもらえばいい、飲んでもらえばいい」という考えは、一時は通用するかもしれませんが、消費者の理解度・満足度が時を追うごとに少しずつ変わっていくことも意識しなければいけない、と思います。