杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

消費者の満足度を考える(つづき)

2010-10-30 14:21:42 | 地酒

 10月25日にUPした『消費者の満足度を考える』の記事を読まれた方から、「地酒まつりに対する書き方は、読んでいて後味が悪い。“悪口”を言っているととらえられたら、スズキさんが長年努力してきたことが無になるのでは」というメールをいただきました。

 

 ブログに書いた記事に対し、こうして直接意見をくださるって本当にありがたいです。記事を書くほうも意見を言うほうも、やっぱり勇気が要ることですものね。読んだ後も何の反応も示さず、スルーするか、陰であれこれ詮索する人のほうが圧倒的に多いでしょう。ご意見ありがとうございました。その方には直接メールで自分の考えをお返事しておきました。

 

 

 私の場合はライターで生計を立てている身なんで、モノを書くときは実名で書くし、酒の業界の発展にプラスになると思えば、『悪口』ととらえられようが、信念を持ってハッキリ書きます。業界に対するクレームの声を聞いても聞き流すとか、自分には直接関係ないからと他人事を決め込むのは、これまで育ててくれた酒の業界への礼儀に反すると思っています。

 

 意見を寄せてくれた方は「ブログで不特定の人に読ませなくても・・・」と懸念されておられました。確かに私自身、投稿保存ボタンを押すときは本当に逡巡します。好きこのんで「後味が悪い」ことを書いているわけじゃありませんから・・・。

 

 これまで地酒まつり実行委員会では反省会をきちんと開いて、私も呼んでいただき、いろいろ意見を言わせてもらっていました。

 しかし、『吟醸王国しずおか』の制作を始めた頃から、特定の蔵元に肩入れしていると思われたのか組合からは距離を置かれ、敬遠されるようになりました。組合員の方から見たら、付き合いにくいと思われているのでしょう。それはそれで仕方ありません。『吟醸王国しずおか』を組合のプロモーションビデオではなく、私自身の20年の取材の集大成にしようと決めたときから、逆風を受けるのは覚悟していました。

 

 そんな中、個人ブログでしか自分の所感や提言を主張できないのであれば、ここを利用するしかないし、書きたいことが自由に書けないのなら、ブログをやる意味がないし、業界に対しておべっかしか書けないなら、ライターの資格はないと考えるようになりました。

 とくに、このところ、日本酒の置かれた環境の厳しさを、他の取材でも知る機会が増えただけに、20年以上、外から静岡酒をウォッチングしてきた自分だからこそ出来る提言があり、ニュートラルな立場だからこそ辛いことも言えるし、自分ぐらいしか言える人間はいないだろうと(不遜な言い方でスミマセン)。

 

 

 言葉というのは難しいもので、キツイと思われるほど力のある言葉でなければ、あるいはオープンな場所で発言しなければ、読者を振り向かせ、考えさせるきっかけにならない、ということもあります。昨年、地酒まつりに対する指摘をした際は、想定以上のオオゴトになってしまいましたが、中には真摯に受け止め、今年につなげる努力をしてくれた蔵元もちゃんといたのです。

 

 

 

 ただ、先の記事は、読者の方からご意見をいただいて、クレームコメントを書きっぱなしの乱暴な記事で、『悪口』ととらえられても仕方ないと反省しました。言葉の表現っていつになっても勉強・修業の繰り返しですよね・・・。

 その上で、少し付け加えておこうと思います。

 

 800~1000人規模の立食パーティーでは、蔵元が自社商品を丁寧に説明したり試飲後の意見を聞くことは不可能だと思われます。だからといって「ただ飲ませればいい」では、初心者のお客さんは雰囲気に煽られ、飲みすぎ、各銘柄の印象などふっとんでしまって、トイレで潰れて、「やっぱ日本酒は体にあわない」なんて思うかもしれません。

 

 

 

 私は、初心者のお客さんほど、丁寧にゆったり試飲できる雰囲気を作ってあげることが肝要だと考えます。少なくとも、試飲と飲食のスペースは分けてレイアウトしたほうがいい。日本酒をさほど飲みなれていない人は、飲食スペースである程度食事をお腹に入れてから試飲したほうがいいと思います。

 

 そして出来れば会場にコンシェルジュというか、困った時の「お客様係」のようなスタッフを各場所に配置してほしい。1000人規模の飲酒イベントなら必要不可欠だと思われます。

 

 当然、酒造組合の組合員だけでは数が足りないでしょうから、小売酒販組合や利き酒師の資格を持った飲食のプロたちの手を借りる。ボランティアで助っ人に行こう!という人は必ずいます。

 私も過去再三、しずおか地酒研究会でお手伝いしますよ、と提言してきましたが、聞き入れられませんでした。ただの愛好会にすぎない地酒研では役不足なら、組合が依頼できるしかるべき団体にお願いしたらどうでしょうか。

 

 彼らには少し早めに来てもらって先に試飲を楽しんでもらうか別の機会に慰労の場を設けるなりして、とにかく10月1日は初心者のお客さんがどう楽しめるかを基準にプログラムすべきでしょう。でなければ、落ち着いて飲食できる着席スタイルに戻し、5000円以上でも行きたい!というお客さんの満足度を上げる方法に戻すほうがベターでは、と思います。

 

 

 

 

 春に、東京でdancyu20周年記念パーティーに参加したときは、試飲会場には簡単なおつまみだけ並べ、名物料理は別会場で給仕する工夫がされていました。私は何も食べず、ずーっと試飲会場でいやしく飲んでいましたが、試飲目的で来ている人には快適な会場でした。

 地酒まつり実行委員会の蔵元さんも、各地のイベントに数多く参加されていると思いますが、ホストの立場では見えないことがたくさんあります。一度は客の立場で参加されることをおすすめします。消費者の満足度を考える、という記事で言いたかったことはそういうことです。