杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

5日酒と匠の文化祭(朗読会準備編)

2010-12-11 11:58:57 | しずおか地酒研究会

 5日酒と匠の文化祭の続き・・・といっても、もう1週間経ってしまいました。この間、参加者の方々がご自分のブログ等でいろいろ感想を書いてくださって、ありがたく拝見しました。中には「こんなに良い酒の会は初めて」とお褒めくださった方も・・・。お酒を愛する人に喜んでもらえてホッとしました

 

 スタッフの櫻井美佳さんが、酒粕料理ワークショップについて詳しく紹介してくれてますので、こちらをぜひ さらに神田えり子さんが夜の朗読会について素敵なレポをしてくださったので、こちらをぜひ

 

 

 

 当日メイン会場の柏屋和食処一祥庵では、新酒の無料試飲&吟醸熟成酒の有料試飲、『吟醸王国しずおか』パイロット版試写、『しずおかの酒を読んでPhoto 酔う~國本良博の吟醸王国リーディング(朗読会)』を開催しました。

 とりわけ、しずおか地酒研究会14年目にして初めての挑戦である、酒の物語を、その酒を飲みながら聴いてもらう朗読会・・・。このアイディアは、過去の様々な経験がベースになっています。

 

 

 

 まず朗読の魅力。これは、なんといっても『朝鮮通信使~駿府発二十一世紀の使行録』で林隆三さんの朗読やナレーションと間近に接してからです。映像に付ける語りは、どうしても映像の補完、というポジションに置かれがちですが、『朝鮮通信使』の中で、黒バックに隆三さんの語りの表情だけで、600字ちょっと読んでいただくシーン(雨森芳洲の『交隣提醒』朗読シーン)があり、当初は不安がありましたが、語りと音楽だけ、というのが、逆に非常に説得力を持ち、とても印象的なシーンになりました。

 

 

 朗読は映像だけでなく活字を補完する力もあると気づかせ、これまで“読んでもらう文章”しか書いてこなかった私に、“語ってもらう・聞いてもらう文章”の書き方を教えてくれた、とても意義深い仕事でした。

 

 

 

 

 

 2009年の静岡県地酒まつり(沼津)で、長年、ボランディアでMCを務めてくださった國本さんに対する主催者側の態度に疑問を感じ、語りのプロである國本さんに、地酒の魅力を伝えていただく方法はもっともっとあるはずだ…と痛感し、まだご依頼できる段階ではなかったのですが、『吟醸王国しずおか』のナレーションを國本さんにお願いしました。ちょうど1年前のことです。

 

 

 資金難に直面し、なかなか編集作業に入れない日が続く中、今年9月、蒲原の和食店『よし川』の女将さんのお誘いで浮月楼で開催された和太鼓ようそろライブに参加したとき、食事し、酒を飲みながら聴く和太鼓や横笛の演奏がとても心地よく、その場で吉川さんに「酒を飲みながら酒の物語を聴く朗読会ってどうでしょうねぇ?」とつぶやき、脳裏には(なかなか映画の編集&ナレーション収録に入れず申し訳なく思っていた)國本さんの顔が自然と浮かびました。

 

 9月には篠田酒店さんの会、藤枝はしご酒協賛のノミの市をやらせていただきましたが、パイロット版上映会は6月以来、ご無沙汰していたので、斗瓶会員(ボランティアスタッフ)に「年内にもう1回、パイロット版上映が出来たら・・・」と相談したところ、とんとん拍子で12月5日一祥庵での開催が決まり、一祥庵では定期的に音楽ライブや朗読会もやっていると知って、準備期間は2ヶ月しかありませんでしたが「これはやるしかない!」と。

 

 

 やると決めたら後先考えず、走り出してしまう私…。さっそく國本さんに打診をして快諾をいただき、次いでブログで「朗読で聴いてみたい酒の小説やエッセイがあったら教えて」と呼びかけ、東京の編集者冨板さんからは「なんといっても“サヨナラダケガ人生ダ”の勧酒(井伏鱒二訳)でしょう~」のメール、浜松の料亭『弁一』鈴木さんからは、酒の名著リストが載っている古い雑誌のコピーを送っていただき、吉田健一の日本文化論集『まろやかな日本』に辿り着きました。

 

 ほか、何人かに推薦してもらったり自分で集めた本など7~8冊をリストアップをして、國本さんと打ち合わせができたのが10月下旬。その中から、國本さんご自身が読んでみたいとおっしゃった吉田健一『まろやかな日本~日本酒の定義』と篠田次郎『日本酒ことば入門』に、酔っ払いの気持ちを代弁してくれる若山牧水『酒の賛と苦笑』、井伏鱒二『厄除け詩集』の詩歌を加え、4作品を選びました。

 

 

 

Photo_2  最初は名著名文学を中心に、私の原稿は前座的に読んでいただければいいかなと思っていました。文士の名文と自分の原稿を比較されるのはなんとも辛いのですが、どんな稚拙な文でも、「その酒を飲みながら聴く」のであればお客様もそれなりに楽しんでいただけるだろうと、HPでも紹介している過去記事から、自分が気に入っている話、朗読に適していそうな話9本をピックアップしました。

 9本ってちょっと多いかなと思いましたが、お客様にしてみればいろんな銘柄のお話が聞けたほうが楽しいですよね。そのかわり、1本をうんとコンパクトに削らなければならないし、耳で聞いただけでは意味が伝わりにくい専門用語・・・たとえば「浸漬(しんせき)・・・しかも國本さんが言語学的に調べたところ正式には“しんし”と読むそうな」とか、「酒林(さかばやし)・・・蔵の玄関の軒下に吊るされる杉の玉」―などはカットしなければなりません。

 

 

 

 でも、國本さんと読み合わせをし、あれこれディスカッションをしながらリライトしていくことで、かえって非常に分かりやすく、すっきりした文章に甦ったのです。吉田健一さんや篠田次郎さんの文も、難解&くどくて読みにくい個所がたくさんあり、これも國本さんの意見をうかがいながら手を加えました。

・・・声に出して読んで伝えるという作業は、文章を活性化させる貴重な作業なんだと、ホント、実感しました。

 

 

 

 また、こういうときって、天の恵みというのか、巡り合わせがよいというんでしょうか、たまたま國本さんが、フリーになって初めて10月末に朗読会を頼まれてやることになり、ご自分で朗読会や単独ライブ用にPA(音響機器)をひと揃えされたんですね。

 國本さんはバンド活動をされていて、ご自分で音楽編集ソフトも自在に操られるので、私が好き勝手に「このお話にはこれ」と持ちこんだCDを、朗読順につなげて編集し直してくださいました。

 結局、読み合わせは初回8時間、2回目も4時間ぐらいかかってしまいましたが、最初からライブと同じようにマイク&スピーカーに音楽まで付けて、ばっちり出来ました

 

 

 そんなこんなの準備を1ヶ月足らずでこなしてくださった國本さんのおかげで、無事、5日当日を迎えることができたのです。

 また当日はライブイベントの進行に慣れているMC神田えり子さんのおかげで、長時間の朗読ライブをお客様に飽きさせることなく遂行することができました。準備期間が短くても、スキルを持ったプロがコラボレートすればちゃんと出来るってことを、まざまざと実感したのでした

 

 準備のお話で終わってしまいました。スミマセン、続きはまた。