杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

5日酒と匠の文化祭(朗読会前編)

2010-12-12 09:41:52 | しずおか地酒研究会

 5日17時30分より、酒と匠の文化祭『しずおかの酒を読んで酔う~國本良博の吟醸王国リーディング』が始まりました。最初の30分は、一祥庵特製松花堂弁当と『富蔵』純米吟醸を味わいながら、『吟醸王国しずおか』パイロット版を観賞していただき、川柳即興コンテストの結果発表&表彰式、サンシンのシアンさんの生演奏をはさみ、予定より少し遅れて18時30分頃から朗読が始まりPhoto_3 ました。

 

 

 

 

 朗読プログラムは以下の通りです。

 

1.日本酒の季節ごよみ 篠田次郎『日本酒ことば入門』から

2.文士、酒を詠むⅠ 井伏鱒二『厄除け詩集』から「泥酔」「勧酒」

3.英文学者の日本酒文化論 吉田健一『まろやかな日本~日本酒の定義』から

4.文士、酒を詠むⅡ 若山牧水『酒の賛と苦笑』から

5.鈴木真弓のしずおか蔵元物語から『初亀が地元にある喜び』

6.『杉錦~地道に造り、丁寧に売る』

7.『志太泉~このごちそうは水の恵み』

8.『國香~蔵元杜氏を育てた里』

9.『喜久醉~きずな結んだ栽培醸造の夢』

10.『若竹~蔵元父子の心つなぐ造り唄』

11.『正雪~酒は家族の履歴書』

12.『磯自慢~吟醸王国しずおかの、ことのはじまり』

13.『開運を支えた男』

 

 

 当初は私の蔵元物語を先に(前座として)、後半に文士の名文をじっくり聞いていただこうと思っていたのですが、國本さんの「篠田さんのことば入門は日本酒のイロハがわかるから先のほうがいいんじゃない?」との助言で、プログラムを立てなおしました。

 私の原稿を後半にしたほうが、もし時間が長引いて、終了時間がオーバーして途中でお帰りになる人がいてもいいですしね。もちろん最後までじっくり聴いていただきたいところですが

 

 

 

 篠田さんの12月・にごり酒編に書かれた、『(アルコール度20度の)にごりをグイーっとやるのは“油断召されるな”』との忠告に、朗読後のミニトークで、國本さんご自身が“油断をして腰が立たなくなった”経験を披露され、ラジオ番組を聴いているようで楽しかった!! フリートークの達人國本さんですから、ホントは1作ごとにそんなミニトークが入ると盛り上がるところですが、用意した朗読原稿のボリュームが多すぎて、せっかくの國本さんの持ち味を活かすことができませんでした。・・・これは反省材料でしたね。

 吉田健一さんは昭和を代表する英文学者で、吉田茂の息子さん。この『日本酒の定義』が収録されている『まろやかな日本』(昭和53年刊)は、外国の新聞に発表したエッセイをまとめたもので、もちろん原文は英語。イギリスの批評家から「著者は完全無比な英語を使いこなす日本人」「本書は名人が作ったけっこうなスフレのような味わい」と絶賛されました。内容も、日本酒を世界の食文化の中で位置付けたり、日本の庭園造りに喩えるなど、素晴らしい比較文化論になっていて、こういうふうに日本酒が描かれると、日本酒はやっぱり“国酒だ”と誇りに思えてきます。

 

 朗読原稿はいつもご自分で入力し直し、読みやすいよう、オリジナルの台本を作るとおっしゃる國本さん。今回は原稿の本数が多く、すべてを入力するにはいくらなんでも時間がなさすぎるし、私がテキストデータを提供すれば済むことなので、すべてこちらで用意するつもりでしたが、この、吉田さんの原稿だけは「じっくり読んでみたいから、自分で入力してみるよ」とおっしゃってくださいました。

 

 ところがところが、実際に音読すると、これがやたら回りっクドイ?文章で、読むほうも聴くほうも苦痛に思える個所がしばしば…(苦笑)。翻訳者が小説家や脚本家だったらきっともっと読みやすい翻訳文にできたんでしょうが、どうやらそうではなかったようです。

 困惑する國本さんの様子に、ここは思い切って手を入れるしかないと腹をくくり、原文で伝えようとしたであろう主旨を活かしつつ、日本語訳を簡素化してみました。

 

 

 井伏鱒二の『泥酔』は、名訳『勧酒』が収録されている復刻版『厄除け詩集』を買った時、見つけた詩です。「べろべろの神様は~」と歌がはさまる詩で、國本さんがどんなふうに読まれるのか、ちょっぴり“お手並み拝見”。國本さんも「メロディが想像つかないからなぁ」と頭をかいておられましたが、見事な“くんちゃん節”で、

 

 ♪べろべろの神様、イズ・ア・バッカァス、

 バッカァス・イズ・ア・オネスト・ゴッド♪

 と読み上げてくださいました。

 

 

 お忙しい中、朗読会に駆けつけてくださった『喜久醉』青島酒造の社長夫妻が、終了後、真っ先に「あの、べろべろの詩、うちの親父が酔っぱらって気分のいい時、よく唄っていたんだよ。歌なんか唄うような人じゃなかったんだが、あの詩だけはお気に入りだったんだなぁ。凄く懐かしかったよ」と話してくださってビックリ!。

 

 ・・・『喜久醉』の物語の感想をドキドキしながら聞こうと思っていたので、一瞬、拍子抜けしちゃったんですが、よくよく考えてみると凄い偶然です。世の中にあまたある酒の詩の中、井伏鱒二の詩集にもたくさんある中で、たまたま選んだ「べろべろの神様」が、國本さんや私が敬愛する蔵元さんにゆかりがあったなんて・・・。まさに「べろべろの神様」がもたらしてくれた素敵な偶然ですね。(つづく)