杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

井植さん、三谷さん、マルクスさん、青島さんに感動!

2011-11-14 10:15:27 | アート・文化

 ここ数日、やたらと時間に追いまくられ、疲れているのも忘れるぐらい疲れてしまってましたが、パニックにならずに済んだのは、いいお話、いい音楽、楽しい映画に触れたおかげでした。忙しいときほど、気持ちを「弛緩」する時間をちゃんと持つって自己管理上、とても大事だと思います。

 

 

 10日、大阪国際会議場で開かれた『新事業創出全国フォーラムIN関西』では、三洋電機㈱の元会長・井植敏さんが意外な?ニュービジネスへの取り組みを披歴されました。井植さんといえば、岐阜にあるノアの方舟みたいな巨大太陽光発電装置「ソーラーアーク」を造ったユニークな経営者としても知られていますが、三洋の最高顧問を退かれ、“後期高齢者”になってからの夢として現在、取り組んでおられるのが、「タップダンス」「ペット乳牛」「魚礁」。

 

 タップダンスというのは、高齢者でも楽しめる、椅子に座ったままの腰掛けタップで、30分タップを踏めば、30分ウォーキングしたのと同じ効果があるとのこと。これを井植さんが提唱し、スクールを立ち上げ、「いずれ特許を取る」と闊達にお話されました。

 

 ・・・実はつい一昨日、街中で道路の段差につまづいてドターンとすっころんでしまったのです。土曜の夕方で、通行人の往来も多く、「大丈夫ですか」と声をかけられ、何事もないふりをしてそそくさと立ち去ったのですが、後で左足首が痛くて痛くて・・・(苦笑)。ひと月前、自転車に乗っていて道路のど真ん中ですってんころりんして、通行人に憐みの声をかけられたばかり。まだ40代なのに、この衰えは何なんだ~と自分が情けなくなりました。年齢って下半身に着実に来るんだと実感していたので、井植さんの「腰掛けタップを広めよう」という試みにはビンビン感じるものがありました。

 

 「ペット乳牛」というのは、井植さんがペットとして乳牛を飼い始め、MY牛乳、MYチーズ、MYヨーグルトを作るという試み。作った製品は他の人に売ろうとすると大変なコストがかかるので、あくまでも自家消費分だけなんですが、「自分で牛を育て、チーズやバターを作ってみて、酪農の未来を考えるいい機会になった」と井植さん。ふだんは牧場に飼育を委託し、パソコンやスマホで飼育状況をウェブチェックするというIT活用も抜かりなし。「都会の金持ちが地方にカネを落とす方法」として仲間を増やしているそうです。

 

 「魚礁」も、故郷の淡路島に4トンのアオリイカが集まる魚礁を作り、漁業の未来を考える活動に展開されているそうです。井植さんのような経験豊富な経営者が、一次産業に真剣に向き合えば、何か新しいものが生まれるのでは、とお話を聞きながらワクワクしましたね。

 

 

 TPPが実現すると、トレーサビリティしにくい農畜産物や水産加工物が海外から安価で大量に入ってくるでしょう。子育てファミリーにとって、本当ならば国産の、さらにいえば、自分で育てた牛から作った牛乳やチーズを子どもに食べさせたい。でもそんなぜいたくは、子育て世代には出来ない。スーパーの安売り品につい手が出る・・・。そんなとき、お金に余裕のあるおじいちゃんおばあちゃん世代が、こういう事業に参加して、自分の孫に安心安全なものを食べさせようって運動につながれば、子育て世代にとっても、一次産業従事者にとってもメリットがあるのかもって感じます。若者が高齢者を支える一方ではなく、元気な高齢者が若い世代を支えるしくみがあってもいいですよね。同じ日本人同士なんだから。

 

 

 

 大阪から夜行バスで帰る前、時間があったので、大阪ステーションシネマという駅ビルに出来た映画館で、ちょうど時間的に合った『ステキな金縛り』を観ました。時間つぶしのつもりだったんですが、おそらくウン十年ぶりぐらいに、映画館で映画を見ながら声を出して笑ってしまった。人前で笑うこと自体、本当に久しぶり。意味があるのかないのかわからないけど、法廷内でタップダンスを踊るシーンがあって、よけいに笑けてしまいました。

 

 映画を観る時って、ややもすると、監督の演出や脚本や俳優の演技力等など、〈要素〉であれこれ理解しようとするクセがあるんですが、そういう小癪な鑑賞方法がくだらないって思えるぐらい作品の世界観を素直に感受できました。三谷幸喜監督が、そういう世界観を醸し出すまで、本当はウ~ンと緻密な造りをしているんだろうと想像すると、よけいに、人間が創るモノって素晴らしいなあと思います。

 

 

 

 人間が創り出すモノの素晴らしさ。音楽もそうですね。12日夜はAOIでマルクス・パヴリックのベートーヴェン・ピアノソナタ23番『熱情』、29番『ハンマークラヴィーア』を聴きに行ったのですが、ピアノ1台でかくも壮大な音の世界観を醸し出せるのかと身震いするほどでした。

 

 この演奏会のことは、以前、AOI会報誌の取材で芸術監督の野平一郎先生から「世界ナンバーワンのベートーヴェン弾き」とうかがって、そんなすごいピアニストが静岡に来るのかと驚いてすぐにチケットを買ったのです。なんでも第29番『ハンマークラヴィーア』は、交響曲並みのスケールで、完璧に弾きこなせるピアニストは世界を探してもなかなかいないそうです。

 途中でマルクスさんがミスったみたいで、一瞬、「I`m sorry」と両手を鍵盤から離した瞬間があったのですが、どこをどう間違えたのか素人にはまったく判らず。ご自分でミスが許せなかったのかなと思うと、よけいに職人魂みたいなものを感じて、感動してしまいました。

 

 

 

 13日午後は以前、お酒のお話をさせていただいたことのある藤枝ライオンズクラブさんの創立50周年記念チャリティーコンサートに行ってきました。テレビの音楽番組の軽妙なトークでお馴染みの青島広志さんが指揮を務められ、これが終始、笑いっぱなしの爆笑コンサート。拍手のタイミングとか、スタンディングオベーションのマナーの(押しつけがましい)教え方が、ライオンズ関係のおじさま・おばさま衆に大受けでした。音楽界のきみまろさんみたい??

 

 

 

 プログラムは「カルメン」「フィガロの結婚」「アイーダ」「魔笛」「トゥーランドット」等などオペラの有名歌曲が中心で、最後に、青島さんの指揮で、静岡交響楽団の団員杉浦邦弘さんが編曲したという静岡ゆかりの抒情歌メドレー「ふるさとしずおか・こころのうた」を、静響と藤枝順心高コーラス部&藤枝少年少女合唱団が演奏しました。

 

 私、初めて聴いたんですが、「コレが静岡の歌です」って世界に出しても自慢できるハイレベルの、実に素晴らしい合唱曲でした。「ふじの山」とか「茶摘」があんな気品あふれる交響曲にアレンジされるとは・・・。青島さんも絶賛し、編曲者杉浦さんをさかんにタテておられました。

 バックに美しい静岡の風景の映像でも流れたら、立派な舞台芸術になると思います。ぜひふじのくに自慢のソフトに育ててほしい!!

 

 

 人を感動させ、やる気を出させるものって、やっぱり人間が創り出すモノなんですね。

 さあ、感性の英気を充電し、新しい1週間の始まりです。今週もバタバタしてますが、頑張りまっせ。