昨日(19日)は平成22年静岡県清酒鑑評会の一般公開と表彰式があり、鑑評会審査員を務めた酒類ジャーナリストの松崎晴雄さんが来静されました。
わがしずおか地酒研究会では、松崎さんが静岡県の審査員を務めるようになった平成13年から、一般公開&表彰式の日の夜、松崎さんを囲む地酒サロンを開催しています。
昨夜も、呉服町に3月1日に開店したばかりの洋風バー『Neo Japanesque Bar MANDO』2階フロアに松崎さんをお招きし、今年の鑑評会審査の様子や、日本酒市場の動向などをうかがいました。
MANDOの2階には、大型スクリーンとDVD再生機が完備されているので、参加者には『吟醸王国しずおかパイロット版』を観てもらいました。静岡の繁華街のど真ん中で、落ち着いた雰囲気のもと、映像視聴と飲食が楽しめる場所というのは大変貴重です。参加者からはさっそく「職場の集まりで予約するから、ぜひこの映像の試写をしてくれ」とオファーをもらいました!会場設営に多大な協力をいただいたMANDOの平井マネージャーにまずは心より感謝いたします(MANDOのお店情報については、『吟醸王国しずおか公式ブログ・杯が満ちるまでon web』もご参照くださいませ!)。
松崎さんのお話を聞き書きしました。長文で恐縮ですが、静岡の酒を長年見守り続けてくださるお立場で、力強いエールをいただきましたので、関係者ならびにファンの方は、ぜひご一読いただきたいと思います。
なお、平成22年静岡県清酒鑑評会の結果はこちらをご参照ください。
第36回しずおか地酒サロン 松崎晴雄さんの静岡県清酒鑑評会2010審査裏話&日本酒市場のこれから
○静岡県清酒鑑評会2010の審査を振り返って
毎年、しずおか地酒研究会でその年の静岡県清酒鑑評会の結果や傾向についてお話させていただいています。
今年は3月12日に審査会が行われました。
静岡の酒は非常に軽くて繊細だというのが特徴ですが、いつもの年に増して軽くてきれいな酒が多いと感じました。新酒の時期の酒は荒々しくて香りは高くても味が渋いという傾向が多いのですが、繊細できれいな酒という特徴に、味の丸みが加わり、新酒のこの時期にしては完成された酒が多かったように思います。
静岡県清酒鑑評会には吟醸の部と純米の部があります。吟醸の部の出品酒はアルコールを添加しますので、キレがよく、味がサラッとしていますが、純米の部の出品酒も軽くてサラッとした酒が並んでいました。今冬の厳しい寒さで、低温発酵管理がうまくいったのではないかと思います。
一方、原料の米については、ここ数年、山田錦をはじめとする酒造好適米が、夏の間の気候障害で米が胴割するなどうまく発育ができず、醸造したときの融け具合にも影響するという傾向が続いています。
にもかかわらず、今回は22社の出品で、吟醸の部に17社、純米の部に18社が入賞し、上位と下位で極端な差がなかったという印象でした。それだけ全体の底上げやレベルアップが図られたのだと思います。
静岡の酒の鑑評会というのは審査に特徴があり、静岡らしい酒=静岡酵母の特徴を活かした香りのきれいな、味が丸くて柔らかい酒を評価するという基準があります。そういう明快な審査基準のもと、上位と下位の酒に差がなかったというのは、各社の認識がきちんと共有されている成果だと思います。
○鑑評会の在り方
日本酒の品質コンテスト=清酒鑑評会というのは、酒造業の技術研さんを目的にスタートしました。全国規模で行われる全国新酒鑑評会は明治期から始まり、100年余の歴史を誇る世界のアルコール業界でも稀有なコンテストです。
日清・日露戦争当時、国税の3分の1を酒税がまかなっており、戦争を継続させるためにも酒税というのは大変重要な財源でした。造ったはいいが酒にならない、売れないでは、蔵元も大変ですが、国としても困るわけです。
その当時と今とでは、酒造業を取り巻く環境は激変しており、鑑評会も、明治の草創期と同じスタイルでいいのか、地域で行う鑑評会はどうあるべきかが見直されるようになりました。出品酒には欠かせない最高級の酒米山田錦は、静岡県でも20年ほど前まで入手しにくい米でしたが、現在は千数百ある全国の酒蔵の中の3分の1は苦労せず入手できる時代になったのです。
静岡の鑑評会では、静岡酵母の特徴を活かした酒、イコール呑んで美味しい酒を評価しようという流れを作りました。
最近、とかく言われるのは、全国新酒鑑評会で1000点近い酒が集まる中、入賞を目指そうと他よりも目立つ香りの酒、第一印象のインパクトが強い酒を出品する傾向。全国レベルでの技術競争の場でもあるわけですから、各地域で新しい酵母の開発にも熱が入ります。入賞を意識するあまり、香りが高く出すぎる酵母を使っても、商品になったときにはたして呑めるかどうか…実際、鑑評会出品酒で、喉が焼けるような思いをしたこともありました。そんな酒が増える中で、静岡の酒は静岡らしさを守っています。つまり鑑評会の中にも2つの流れがあるわけです。
自動車でも、F1レースに出場するマシンはスピード能力に特化する。しかしふだん乗る車は居住性や燃費がいいものを選ぶでしょう。酒も同じで、静岡の酒はふだん安心して乗れる車のようなものだと思います。
最初に静岡の酒がブレイクした20余年前から、静岡の酒のスタイルというのは大きくは変わっていません。当時は静岡の各蔵も山田錦が入手しにくかったことから、吟醸酒造りに苦労したようですが、米の流通を含め、酒を取り巻く環境は変わり、バブル期を経て吟醸酒は市場に浸透しました。
そんな変化の後も、静岡の酒はブレイク当時とほとんど変わらない。喜久醉の青島孝さんが『吟醸王国しずおかパイロット版』の中で、「静岡の酒は日本酒の本質を表している」と述べておられましたが、実に的を得た言葉です。
○海外市場に向けて
日本酒はここ10数年来、海外からの需要が増えています。一昨年秋のリーマンショック以降、やや足踏み状態で、昨年はその影響を受けて久しぶりに日本酒の輸出量が前年比97%になりましたが、依然として輸出先で断トツに多いのはアメリカで、ここ5年ぐらいで急成長しました。
アメリカ輸出用の酒は、一升瓶で5000~6000円ぐらいの純米吟醸・純米大吟醸クラスのものが売れています。日本酒は当初、エキゾチックな東洋の酒というイメージで受け入れられていましたが、吟醸クラスの酒をアピールすることによって、徐々に日本酒本来の美味しさが理解されてきたのだと思います。
ワインと違い、日本酒は色が透明なので、パッと見はどれも同じですが、呑んでみると香りや味わいが全然違う。和食のみならず洋風にも合う、とくに魚料理には非常にマッチするということに、海外の人々が驚きと感動を持って受け入れつつあります。
アメリカでもどちらかというとバブリーな需要があって、マイアミ、ラスベガスなどセレブがお金を使うような場所で売れています。ラスベガスあたりでは、ギャンブルですった得意客をなだめるために、ホテルやレストラン側が「店のとっておきの酒をサービスします」と10数万円の価格が付いた日本酒を出したなんて話も聞きました。日本ではありえない話です。
最近では韓国や中国の伸びが顕著です。韓国は少し前まで日本の食や文化に抵抗感が根強かったのですが、最近では状況が変わり、日本酒も毎年200%近い伸びを見せています。
中国は韓国ほど表立った数字では出てきていませんが、アメリカを抜くぐらいの勢いで伸びています。
アメリカあたりでは成熟した呑み手が日本酒の価値を理解して呑み始めているわけですが、韓国や中国ではまだ、日本酒を呑むこと自体がステイタスのようなとらえ方をされています。それでも造り手の違い、産地の違い、原料の米や製法の違いなど、さまざまな楽しみ方を理解していけば、本当の意味で、地に足のついた日本酒ブームが起こるのではとも思います。いずれにせよ、市場が成熟してくれば、蔵元や地域の個性をきちんと表現できる酒が強みを持ってくるでしょう。その意味で、明快な酒質を持つ静岡の酒には大いに期待できます。
製法の特徴を英語やハングルや中国語で説明するのは難しいかもしれませんが、呑んでみて違いがわかればいい。わかりやすい酒というのが大事だと思います。
きれいで丸くて呑み口のやわらかい静岡の酒は、日本酒を初めて呑む海外の人々にも好感を持って受け入れられると思います。
ぜひ静岡へ来た海外の人をもてなすとき、あるいは静岡から海外へ出かけたときに、静岡の酒をアピールする機会を持っていただきたいですね。(聞き書き/鈴木真弓)