杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

24年の縁と新たな縁

2010-10-19 00:05:21 | アート・文化

 昨日(18日)は一日伊豆でお仕事。久しぶりの遠出でしたが、お天気もよかったし、エアコンなしで快適なドライブが楽しめました。

 

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 お昼に寄った天城湯ヶ島門野原の『狩の川屋』というアユ料理の店、昭和62年に静岡新聞社から発行された『狩野川通信』というムック本で取材したことがあります。当時は道端にドラム缶を並べて塩焼きを路面販売していた様 子をイラストに描き起こして紹介したんですが、今では立派な食事処&土産物店になってて、ご主人に「実は20年以上も前に・・・」と話したら、「あの本、今でも店頭に置いてあるよ、イラストが似てるって冷やかされたなぁ~」と思いだしてくれました。

 

 すっかり色あせてしまった本のページをめくったら、懐かしいイラストと記事が・・・。まだ酒の取材を始める前の、ホントの駆け出しライターのころで、イラImgp3083 スト画を持って広告会社をいくつか回って「ちゃんとした美大も出てない素人の画じゃあね、デッサンの基本もなってないじゃない?」とこっぴどくけなされたこともありましたっけ でも、某印刷会社さんからこの本の取材の仕事をもらい、ダメもとで「写真じゃなくて絵で説明したいんですが」とイラストを描いて見せたら運よく採用され、後に編集者からも「挿絵がImgp3084 評判だったよ」と褒めてもらえて、どんなに救われたか・・・。

 

 

 

 そんな思い出のあるご主人と、「24年も前か~、おれもおネエさんも歳食ったなあ」と笑い合い、帰り際に奥さんから「今でも仕事続けてるの?」と聞かれ、「相変わらずですよ~」と返事して車を発進させ、奥さんが店の前で手をふって見送ってくれたとき、何ともいえない温か~い気持ちになりました

 

 

 24年も経てば、飲食業も(ましてや浮き沈みの激しい観光地ならば)代替わりしたり業態が変わったりといろいろあるだろうし、女のフリーライターは仕事どころか生き方だって変ってて不思議じゃない。・・・なのに狩の川屋さんは昔と変わらず鮎やズガニを名物に同じ場所でしっかり商売してて、さらに看板を立派にしている。私は私で、なんとかこの仕事を続けていられた。そんな取材対象者と24年ぶりに会ってもちゃんと思い出して話ができるって、すごい奇跡だな~って。

 女が24年前と公私にまったく変化がないって、タイヘンな不幸かもしれないけど、昨日ばかりは、「公」だけでも現役でいられた幸せを噛みしめました

 

 

 

 夜、家に戻ったら、過去ブログでもご紹介した方々から催事のお知らせが偶然、まとまって届いていました。どんな小さなご縁でも大切にしていれば、いつかまた、狩の川屋さんと再会したときのように笑い合えるかな~なんて思います。このブログでつながっているみなさんにも、新しいご縁をつなげる橋渡し役になりたいです。興味のある方はぜひ。

 

 

 

ふじのくに輝く名産フェア★10月19日(火)~25日(月)★松坂屋静岡店8階大催事場

 静岡県商工会連合会50周年記念の地場産品展示即売会。県内の特産品やご当地グルメが駅前の百貨店に500品目以上集まる一大フェアです。3000円以上お買い上げの方には、私がネーミングし過去ブログでもご紹介した『つまんでごろーじ』『ふじやまさんちのいつかちゃん』『ふりーらフルーラ』が当たりま~すPS.ふりーらフルーラは静岡県グッドデザイン大賞を頂戴しました

 

 

日比野ノゾミさんの酒器出展!ちいさなクラフト展★10月30日(土)~31日(日)★木藝舎Satoギャラリー(静岡市葵区足久保奥組堀下212)

 アートをもっと身近に気軽に楽しめる新スタイルのクラフト展。陶芸家日比野ノゾミさんも出品します(過去ブログはこちら)。モノ作りを体験できるワークショップや音楽ライブもあるそうです

 

 

追悼中條峰雄回顧展『うるし うるわし 漆の世界』★11月2日(火)~7日(日)★静岡県立美術館県民ギャラリー

 過去ブログでもご紹介した漆工芸作家・中條峰雄先生の3回忌にあたり、晩年の作品を中心に日展・現代工芸の大作も多数展示されるそうです。先生の大作を一度にたくさん鑑賞できる貴重な機会ですので、ぜひ

 

 

人権シンポジウム「障がい者の人権とマスコミ報道~とりはらおう“心の壁”」★11月6日(土)13時~★静岡市中央福祉センター(静岡市葵区城内町1‐1)

 以前こちらでご紹介した静岡人権フォーラムのシンポジウムです。静岡福祉大学の山城厚生教授の講演、事例発表、グループディスカッションなどが予定されています。参加費無料。問合せ先054-254-6880(静岡市障害者協会)


読んで酔う酒の名文

2010-10-17 10:47:56 | 吟醸王国しずおか

 『吟醸王国しずおか』の制作がはかどらず、外で人にお会いするたびに「いつ完成?」と訊かれ、心苦しい毎日が続いています。事情を察し、「今からが、ものすごいハードルだと思う。ふんばれ!としか言えないけど…」と慰めてくれる人もいますが、自主制作で作品づくりに取り組むクリエーターにとっては、共通の試練かもしれません。

 進展しないせいか、最初は興味を持ってくれたのに、次第に離れて行く人もいて・・・だからこそ、辛抱強く手を差し伸べてくれる支援者の存在が一層ありがたく感じられます。今年はとくに、制作支援金の募金活動の場を、多くの方が用意してくれました。本当にありがとうございます。

 

 

 

 ところで、県内では年末12月5日(日)に楽しい企画を進行中です。詳細が決まり次第ご案内しますが、プログラムの中で、『吟醸王国しずおか』HP上に連載中の『読んで酔う静岡酒』をプロの語り部の力をお借りし、まさに“読んで(聴いて)酔う”ライブにしちゃおう!と考えています。

 

 これは、私が本編映像の構成づくりやナレーション・テロップ原稿の執筆に悩んでいた時に思いついた実験というのか、2本のパイロット版では編集と音楽の効果を試すことができたので、今度は「朗読ライブ」のかたちを借りて、語りの説明や文字の説明の配分や、語りがどんな効果をもたらすのか試してみようと。
 幸い、本編ナレーションをお願いする予定の「語り部」さんにも協力していただけることになりました。ぜひみなさまも、この大いなる「実験」に立ちあっていただき、映画制作の過程を疑似体験していただければ、と思っています。

 

 

 

 現在『読んで酔う静岡酒』で紹介した静岡の蔵元物語とあわせ、酒の名著名文を集めています。不幸なことに私も含め、周りには、“読んだだけじゃ酔わない、飲まなきゃ酔わない”酒徒が多いため(笑)、みなさまから広く募りたいと思います。

 

 

 たとえば、博学で知られる浜松のSさんからは、倉橋由美子著『城の中の城』の一節を紹介してもらいました。


「林檎畑を通ってきた風の匂ひがする。それとも半輪の月を浮かべて溶かしたやうな水と言うか、とにかく」と耕一君はもう一度口に含んでから言った。「これは酒の匂ひがしなくていくらでも飲める」
「お米を玉のやうに磨いて、特別の水で特別に造ってたまたま見事にできたのださうです」
「吟醸」と桂子さんが言った。

 

 林檎畑を通ってきた風の匂ひ・・・なんと粋な表現でしょう。コピーライターのくせに、馬鹿の一つ覚えみたいに「フルーティー」としか言えなかった自分が恥ずかしくなりました

 

 

 

 また東京のTさんからは、私も好きな井伏鱒二訳の漢詩『勧酒』を推薦していただき、改めて井伏鱒二の『厄除け詩集』をじっくり読んで、しみじみ酒杯を傾けました・・・。

 

 

 勧君金屈巵  満酌不須辞  花発多風雨  人生足別離

 コノサカヅキヲ受ケテクレ 

 ドウゾナミナミツガシテオクレ

 ハナニアラシノタトヘモアルゾ

 「サヨナラ」ダケガ人生ダ

 

 

 こんな感じで、本当に読んだだけで心地よく酔えそうな名文、ご存知の方はぜひご推薦ください。メールはこちらまで!
info@ginjyo-shizuoka.jp


驚異!5台のピアノの競演

2010-10-15 17:18:57 | アート・文化

 14日は静岡音楽館AOIで開かれた『驚異!5台のピアノの競演』を聴きに行きました。

 ピアノで2台の連弾演奏ってのは知っていますが、5台って・・・まずグランドピアノが5台も並ぶステージからして想像できないですよね。

 

 

 今年開館15周年を迎えるAOIは、クラシック、現代音楽、伝統芸能などさまざまな分野のプロフェショナルが企画委員を務めていて、独自のプログラムを年数回開催しています。

 今回はAOI芸術監督の野平一郎さん(東京芸術大学教授)が「自分が憧れていた演奏家で、その企画力に絶大な信頼を置く」という現代音楽のピアニスト高橋アキさんのプロデュース。現代音楽も現代アーティストにも疎い自分には初めての世界でしたが、「静岡音楽館倶楽部情報誌AOI通信」の取材でお2人の対談記事を書いた縁で、未知の音楽の世界への好奇心も手伝って、自分でチケットを買って行きました。…ホントは記事をかく前に聴けたらよかったんですけど

 

 記事の一部を紹介します。

 

 

(野平一郎)私にとってアキさんは「自分たち世代の音楽観を創造してくれた存在」のお1人で、若者に現代音楽の面白さをトコトン教えてくれた憧憬の存在です。そういう先輩と一緒に仕事が出来て、本当に得難い経験をさせてもらっています。とくに企画力のない自分に、「演奏会を企画するというのはこういうことだ」と身をもって示してくださったことに感謝しています。

 演奏会企画とは、企画者自身にやりたいことが明確にあって、その人自身の日頃の音楽活動から培われたものがにじみ出てくるもので、単に楽曲を並べるものではないと教えていただきました。今回の5台のピアノ競演も、まさにピアニスト高橋アキの国境を越えた活動領域が実現させたものですね。

 

 

 

(高橋アキ)5台のピアノのための音楽』を書いたホセ・マセダ(フィリピン)は、AOI開館初年度に実際に静岡児童合唱団の子どもたちを指揮しましたので、ご記憶の方もいらっしゃると思います。

 彼とは昔から顔見知りでしたが、1992年頃、武満徹さんの音楽祭で会ったとき、アジアの民族音楽を専門にしていた彼に「ピアノ曲はあるの?」と聞いたら、「あんな時代遅れの楽器に作曲するわけがない」と強く拒絶され、私もムキになって「ピアノという楽器には可能性が残っている」と反論し、彼はなんと「1台のピアノには作曲しないが、5台のピアノのためなら書こう」と言いだした。今度はこちらがびっくりしましたが、実現したら今までにない素晴らしい音楽が誕生するような気がして、何ヶ月間もディスカッションを重ねました。彼は演奏家とマンツーマンでパート練習をします。それは自分にとって得難い経験でした。

 

 

 

(野平)今回のプログラムの一つ『4台のピアノのための作品』を作曲したモートン・フェルドマン(アメリカ)とも深いかかわりをお持ちですね。私はアキさんが企画の中で取り上げる以前から彼の作品に注目していました。

 

 

 

(高橋)企画書を出した時、野平さんの構想にもフェルドマンの名前があったので嬉しくなりましたよ。彼が本格的に26時間ぐらいの曲を書き始めた頃、直接呼ばれてアメリカへ行きました。すごく手の大きな人で、私が弾きづらそうなところをその場で修正してくれた。アキのおかげで誰もが弾きやすい曲になったと言われました(笑)。彼の『TRIO』という作品を、海外からチェロとバイオリン奏者を呼んでAOIでやらせていただきましたね。

 

 

 

(野平)この演奏会によって、アキさんは芸術選奨を受賞されました。AOIとしても大変光栄なことです。今回はさらに、ピーター・ガーランド(アメリカ)に新作『魔よけ』をAOI委嘱作品として書きおろしてもらい、世界初披露することになりました。彼はどんな作曲家ですか?

 

 

 

(高橋)6070年代のヒッピー世代の人で、メキシコにも長く暮らし、民族音楽のフィールドワークを重ねた自由人です。作品も、ネイティブアメリカ、ラテンアメリカなど多種多様な要素を含んだ非常にユニークな構成ですが、生まれる響きはとても美しい。純粋な人柄がにじみ出ています。大変な読書家で、来日した時も一休禅師の『狂言集』を読んでいました。佐渡島の寺に籠って作曲していましたよ。今回の作品もすごく楽しみですね。

 

 

 

(野平)今回のプログラムで、唯一、アキさんが交流の機会がなかった作曲家がダリウス・ミヨー(フランス)です。彼の作品は他の3人に比べたら一般に馴染みがありますね。彼は1974年に亡くなっていますが、彼が活躍していた時代、パリにはアフリカやラテンアメリカからさまざまな音楽が入って来て、彼自身もブラジルやニューヨークでジャズをかじるなど、しなやかな感性と猛烈なエネルギーを持っていた。モーツァルトも顔負けの“多作家”だったんですよね。

 

 

 

(高橋)今回のプログラムを通して改めて、音楽というものが地球上のありとあらゆる場所で生まれ、広がり、結びつき、次から次へ新しいものを創造するものだと実感していただけるんじゃないかしら。

 

 

 

(野平)「音楽とはこうだ」と思いこんで、接する機会を狭めてしまうのは、もったいないことです。小さな子どもが初めて音楽を聴くときは、固定観念なしに真っ白な状態で素直に受け入れるでしょう。

 アキさんがこれまで企画されてきた現代音楽のジャンルは、ともすれば小難しいと思い込む人がいるかもしれませんが、こんなに多様で面白い世界はありません。演奏家が作曲家と協働で創り上げた音楽を、同時代に生きる聴衆にストレートに届けられる。しかも東京ではなく地方が海外と直接結びついて発信できる。地方の音楽ホールでもここまで出来るということを、アキさんは実践してくれました。

 

 

 

 

 

 

 

 記事中、今回世界初演と紹介されたピーター・ガーランドの『魔よけ』は、4台のピアノ演奏でしたが、4人のピアニストが発する40通りの音が、ときに同調し、からまり、あるときは打楽器や管楽器に聴こえたり、風や波のような自然の音にも感じられたり・・・で、ピアノの調べがこんなにふくよかで多彩なのかと深く感じ入りました。ガーランド氏自身も来ていて、やんやの喝采を受けていました

 

 

 お2人の思い入れのあるフェルドマンの『4台のピアノのための作品』(1957)は、4人のピアニストが同じ譜面を演奏するのに、一緒に出すのは最初の音だけで、後はフリー。フェルドマン自身が考案した“自由持続記譜法”という譜面だそうで、基本のピッチと拍だけは指定するものの、音の長さは個々の演奏家におまかせ。4人の音がぶつかったりズレたりで、自由持続記譜法の解説を読まずに聴き始めたら「・・・一体どんな譜面なんだろう」と頭がコンガラがってしまいました(苦笑)。

 

 

 

 4人のピアニストが起こす自然発生音は、まるで動植物や微生物の動きにも似て予測不可能で、その不規則さに身をゆだねていると、「現代芸術とは自然界に接近する作業なのか・・・」なんてフィロソフィーな気分にもなったりしてきます。確かに難解な作品だったけど、ピアノという楽器にはこんな表現方法もあるんだと目からウロコでした

 

 

 

 

 それにしても、これほどレベルの高い演奏会を、駅前で4800円で聴けるなんて、AOIの企画コンサートを聴き逃していた(自分を含めた)静岡市民は、なんだかソンをしているような・・・。地元にあるイイものを看過し、豊かさを実感せず、アピールもしない静岡人を、酒の事ではよく批判してきた自分が恥ずかしくなりました

 

 

 AOIの一流のプロの企画委員が心血注ぐプログラムは必見です、と、今なら実感を込めて書けます


SPAC『令嬢ジュリー』鑑賞

2010-10-12 15:57:02 | アート・文化

 9日(土)はSPAC(財団法人静岡県舞台芸術センター)の秋の新作『令嬢ジュリー』の取材。JR東静岡駅前のグランシップに併設されたSPAC専用劇場・静岡芸術劇場での上演です。劇場には取材で入ったことがありますが、実際に舞台を観るのは初めて。劇場施設としては(素人判断ですが)本当に素晴らしく、日本で初めての公立文化事業集団SPACの活動拠点らしく、演劇を志す人にとっては至れり尽くせりの施設のようです。

 

 以前、倉庫や屋根裏部屋みたいなところで必死に活動するアマチュア劇団を取材し、個人的にも応援した経験があるので、ついつい比べてしまって、第一印象は「恵まれすぎた環境で創作活動するってのも、ある意味、シンドイだろうな~」と率直に感じてしまいました…。

 

 

 

 『令嬢ジュリー』はフランスの劇作家ストリンドベリが1888年に書いた自然主義戯曲で、精神不安定な伯爵令嬢が下男と過ちを冒す一夜の出来事を通し、階層社会への批判や人間の精神の開放といった複雑なテーマを、当時出現した象徴主義的手法で表現し、物議をかもしたようです。検閲を受けたり観衆のひんしゅくを買ったりで、なかなか評価されなかったのですが、1904年にスウェーデンで初演されてから全世界の演劇レパートリーに持続的に加わり、今では最も上演される古典戯曲の一つとして愛されています。

 

 ・・・というようなことを、上演後に読んだプログラムで初めて知ったわけですが、観る前はまったく何の予備知識もなく、ストーリーも知らず、全面真っ白のカプセル要塞みたいなステージに竹が何本か飾られ(庭を表現している?)、そこで数人の男女が80~90年代のロックに合わせて踊りまくっていて、手前にはガラスサッシで仕切られたシステムキッチンがあり(屋敷の厨房?)、和服姿の女性が食事の用意をしているシーンから始まったので、何のこっちゃと目を白黒させたのでした。

 

 

 演出はフランス現代演劇の注目株フレデリック・フィスバック氏。こういうスタイリッシュな空間設計はヨーロッパ現代演劇のトレンドだそうで、そういう中ですっぴんの日本人が和服や平服で19世紀ヨーロッパの階層社会のひずみや男女間のドロドロを表現する・・・。これは観る者に脳内変換力が要るな~と途中で疲労感を覚えました。

 主人公の令嬢を演じる女優は黒髪すっぴんの下着姿で、駆け落ちしようと着替えたのもパーカーにジーパン。下男ジャンを演じる俳優は、どうみてもメタボな中年サラリーマンにしか見えないんだけど、若いイケメンで頭の回転の速いキレ者という設定のよう。ジャンの婚約者の飯炊き女クリスティンは和服姿だし・・・。

 

 

 

 ところが、上演後に俳優さんや演出家を囲むトークの時間があって、いろいろ話を聞くうちに、「日本人が等身大で演じることで、遠い西洋の古典戯曲がDsc_0018 現代劇になる」価値が見えてきました。鑑賞していた高校生たちが演出家をつかまえて真剣に意見を交わし合う姿を見て、世の中の既成の枠から飛び出したくても飛び出せない登場人物たちの叫びが、10代の若者の自分探しの姿に重なり、彼らは彼らなりにしっかり作品のテーマを受け止めたんだ・・・と感じました。

 

 

 こちらも、令嬢を演じた女優さんをつかまえ、無機質な舞台空間やすっぴん普段着衣裳にした意味など、あれこれ意見を交わし合ううちに、次から次へと「気づく」ことがあり、一緒に観賞した県広報局や文化政策課の職員と、その後もやんやと語り合ってしまいました。

 

 

 

 

 運よくお会いできたSPAC芸術総監督の宮城聰さんには「同じ舞台を観ても反応はさまざま、感想もさまざま。でも自分と他人の感じ方に違いがあることDsc_0023 は何の障害でもない。違っていい、多様でいいんだということを実感できるのが演劇の良さ。これは、ややもすると横並びや同調を良しとする教育現場や企業組織の職場で息苦しさを感じる現代人に、何かの力になるのでは」と教えていただきました。

 

 

 

 上演後にやんやと語り合う時間を含め、演劇って「考えさせる力」を鍛える芸術だなーと実感します。ストーリーはもちろん、生身の人間が目の前でどう演じるのか、演出家は古典を現代で再演する上でどうアレンジするのか、観る人によって受けとめ方も違うだろうし、観た後は本当に疲れる(苦笑)。この疲労感は、劇場に居合わせた人間だけが経験できる、心と脳のカロリー消費運動なのかもしれませんね。

 

 

 

 ところで、都会の小劇場の近くなんかには、上演後にやんやと語り合う酒場や喫茶店があって、演劇文化を醸成する“界隈”らしさがありますよね。静岡芸術劇場の周辺も、今の東静岡駅みたいにあんまり整然とした区画整理じゃなくて、昔の七間町映画館界隈みたいに裏通りには『ういんな』ふうの喫茶店や、我が行きつけの『狸の穴』みたいな酒場があって、駅前なんだから終電まで飲んだり語り合ったりできると嬉しいのになあ・・・。

 

 なお、SPACの次回作はソーントン・ワイルダーの『わが町』。文学座の実力派俳優・今井朋彦さんが演出されます。今井さんって三谷幸喜脚本の大河ドラマ『新選組!』でエキセントリックな徳川慶喜を演じ、その後、殿様スタイルで消臭剤のCMに出てましたよね!(笑)。上演後にお話が聞けるのであれば、ぜひ観に行きたい! 

 上演日は10月30・31日、11月6・7日、13・14日です。詳しくはSPACホームページまでどうぞ。


3Dの洪水に晒されて

2010-10-10 00:01:32 | ニュービジネス協議会

 8日(金)は(社)静岡県ニュービジネス協議会の視察で、幕張メッセで開催中のCEATEC JAPAN2010に行ってきました。アジア最大級の最先端IT・エレクトロニクス総合展で、今年で11回目。私は昨年に続いて2回目の視察です。

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 昨年は地デジ&3D対応テレビが注目の的で、行列に並んでメガネをかけて3Dシアターを視聴したのですが、今年の行列は東芝のグラスレス3D(メガネなしの3Dテレビ)。最後尾を探したら、待ち時間最低90分といわれ、他の視察ができなくなるので泣く泣くガマン。同行のニュービジネス協議会メンバーと「整理券を出せばいいじゃないか、不親切だなー」と憤慨しちゃいました。…我々田舎モンと違い、東京の人は百貨店の初売りでも人気ラーメン店でも、並ぶのゼンゼン苦じゃないんですよね(苦笑)。

 たぶん、あえて長蛇の行列をさせることも、出展企業にとっては“勲章”のようなものなんでしょう・・・。

 

 

 

 東芝レグザのブースでは誰でも観れるステージの新製品PRショーで、ノートパソコンほどの画面でグラスレス3Dをチラ観させてくれました。最前列で目を凝らしてみたんですが、画面があまりにも小さくてよく解からず(苦笑)、MCのお兄さんとダンサーが盛り上げていました。このお兄さんとダンサーさんってどこかの劇団かダンススタジオに所属しててバイトで来てるのかな~なんて関係のないことを想像してしまいました

 

 

 

 今年の各ブースはとにかく、3Dは“標準規格”なので、どのように魅せるか企業別に見比べました。

 

 

 東芝はグラスレスという目玉があったものの、結局見られなかったのでまったく楽しめず残念  

 

 ソニーの3Dは要メガネでしたが、ものすごーい大画面で展示会場のお客さんたちを3Dカメラで撮ってライブで見せたり、大画面いっぱいにグランドキャニオンの絶景が3Dで映し出されると、ホントにその場を低空飛行してるみたいで大感激でした

 

 パナソニックも要メガネですが、3Dの楽しみ方を丁寧にレクチャーするようなステージで、とてもわかりやすく、プレゼンとしては一番まとまっていたと思いました。

 

 シャープや日立は、ステージショーのようなプレゼンがなく、展示物をおのおの観てその場で解説してもらうというブースでした。待たず並ばず、すんなり観れて、丁寧に解説もしてもらってヨカッタです

 

 

 

 ITやエレクトロニクスの世界はまったくの門外漢で、こういう展示会に来ても、ただただ「は~すごいな~」と目を白黒させるだけで、協議会会報誌のレポートでも大した記事が書けず、お恥ずかしい限りです・・・。つい先日も、ニュービジネスサロンで富士通の専門家の方に『クラウド』について解説してもらい、なんとな~くおぼろげに理解出来た次第。『クラウド』っていつの間にかIT用語の常識になっていて、新聞の見出しで見かけても何のことやらさっぱり付いていけなかったのです・・・ 20代30代のころに比べ、確実に、〈最先端〉への理解力や適応能力が落ちているのを痛感しますね~。

 

 

 

 明日(11日)の誕生日でまた一つ、年齢という重石が加わり、時代のフロントが一歩遠く、クラウド(雲)の向こうに離れていく気が・・・。

 酒に関わっていると、年齢を重ねる=酒の味がわかってくるって美徳扱いなだけに、たまにこういう展示会に来ると、重石をいくつもぶら下げて〈最先端〉のスピードにまったく付いていけなくなってる自分に気づいて愕然としちゃいます

 

 

 

 

 それはそうと、2か月前にやっと地デジ対応薄型テレビを買ったのに、あっという間に3Dテレビが普及して(グラスレスも他社が追随するんでしょう)、パソコンだって今に3D画面が当たり前になっちゃうんでしょう・・・。2か月前まで観ていたアナログテレビ、まだまだ十分観れたのに、一体、何度買い替えさせたら気が済むんだよ~と言いたくなるのは私だけじゃないですよね