杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

電気の有難味

2012-04-14 09:46:16 | ニュービジネス協議会

 昨日(13日)は(社)静岡県ニュービジネス協議会中部部会のトップセミナーで、愛知県知多半島にある中部電力の武豊火力発電所&メガソーラーたけとよ、碧南火力発電所の2か所を訪問しました。

 

 

 

 武豊には昭和40年代に建てられた石油を燃料とする火力発電所が4基あり、3・4号機が通常運転中。最も古い1号機はすでに廃基、2号機も3年前に休止し、廃基予定だったところ、昨年の原発事故→浜岡原発停止の影響で急きょ復活しました。

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 機械を止めて2年間、ほぼ野ざらし状態にあった2号機は、外観はアクション映画のロケに使えそうな?いい感じのクタビレ感が・・・。中の装置もかなりの旧式なので、すぐに動かせ、といってもそう簡単ではなかったようで、2年間眠っていた2号機を再稼働させるためのドキュメントを映像で見せてもらいましたが、プロジェクトX並みの緊迫感がありました。

 

 

 

 

 

 

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 発電用の機器というのは、絶対に不備が許されません。ちょうどメンテナンス中のタービンの内部をじっくり見ることが出来ましたが、つねにメンテ・メンテの繰り返し。電力問題のニュースで「発送電の分離」が取り沙汰されていますが、発電側の状況をよほどきめ細かくフォローできる送電機能を持たない限り、難しいんじゃないのかなあというのが素人の印象でした。メガ級の蓄電装置でも持っていれば別ですけど・・・。

 

 

 

 

 

 

 

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 5号機の建設予定地だった場所には2011年10月から、中部地域最大規模の太陽光発電メガソーラーたけとよが稼働しています。メガソーラーの敷地はナゴヤドーム3個分(約14万平方メートル)、約3万9千枚のソーラーパネルが設置され、一般家庭約2千世帯分の年間使用電力を作れるそうです。

 石油や石炭と違いCO2は出さないし、原子力とは比較にならないほど安全だし、お天気さえよければ無尽蔵に使えるソーラーエネルギー。いかにも21世紀らしい!と実感します。静岡市清水区の三保半島にも、2014年度にメガソーラーが完成予定とのこと。ただしー

 

 

 

 

 

■発電機1基当たりの発電能力(中部電力管内比較)

 メガソーラーたけとよ(太陽光) → 1年間で730万kwh

 碧南火力発電所5号機(石炭) → 8時間で800万kwh

 浜岡原発5号機(原子力) → 6時間で828万kwh

 

 

 こういう数字を見せられると、太陽光や風力等の再生可能エネルギーでは、今の暮らしを支える電力需要をカバーできないと実感しますね・・・。

 

 

 

 

 

 午後は対岸にある碧南火力発電所を訪問しました。日本最大の石炭火力発電所です。発電施設に加え、貯炭場、排煙脱硝装置・排煙脱硫装置、集じん装置など石炭火力特有の設備がかなりのスペースを占めています。

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 石炭はオーストラリアとインドネシアから輸入しているそうです。オーストラリアから、タンカー一杯に積んだ石炭を運んで戻るまで1カ月かかるけど、運んだ石炭は3日ぐらいで使いきってしまうそう。いやはや日本の電気は海外資源頼みなんだなあと痛感させられます・・・。

 

 

 

 中部電力の担当者は、石油・石炭・LNG・再生可能エネルギー等など、それぞれ長所短所のある発電方法をバランスよく組み合わせた「電源のベストミックス」に尽力し、節電へのご理解はお願いするものの、中部電力管内で大停電を引き起こすようなことはないよう努める、と力強く言ってくれました。

 

 

 

 

 

 電気を作る、送る・・・改めて大変な仕事だなあ、あんまり電力会社だけを一方的にいじめちゃイカンなあと思いつつ、帰路につき、風邪が完治していないのでお風呂はやめて熱めのシャワーをザッと浴びて、ニュースを見ながら髪を乾かしていたら、22時前に突然、停電!! なになに、スポーツニュースで阪神の試合結果を楽しみにしていた直前に真っ暗。外を見ると、ご近所一帯、真っ暗闇。すぐ裏の静岡県立総合病院とその横のでっかい高層マンションだけが自家発電のせいか窓明かりが付いている、異様な光景が広がっていました。

 

マンションの3階なので、水道の汲み上げにも電気が必要みたいで、水道も止まってしまいました。間一髪、シャワー中でなくてよかったけど・・・

 

 

 最近、部屋の大掃除をして、懐中電灯の電池も入れ変えて、分かりやすいところに置いたばかりだったので、懐中電灯と携帯電話のワンセグ放送を付けて(・・・といっても全国ニュースでは北朝鮮ミサイル問題ばっかりで、ローカルの停電ニュースなんて皆無)、ついでに久しぶりにアロマキャンドルも付けてみて、仕方なく、復旧するまで小一時間、じーっとしてたら、トイレに行きたくなって、うう・・・でも水洗が流れなかったらどうしよう・・・・でもガマンできない~っと、腹をくくって便器に座ろうとした瞬間、パッと明るくなりました。

 

 

 

 震災に遭われた方のことを思うと情けない話ですが、1時間もの停電なんて本当に久しぶりの体験だったので、ビビってしまいました。水の貯め置き、これ、すごく大事だと実感しました。停電が事前に分かっていたらシャワーじゃなくてお風呂にしたのにぃ

 

 

 

 

 今朝の朝刊には、たった数行「原因は電線がショート」だって。中電さん~、せっかく電気を作る現場のみなさんをリスペクトしてきたばかりなんだから、お願いしますよ。


松崎晴雄さんの日本酒トレンド解説~2012鑑評会を振り返る(その2)

2012-04-12 13:46:20 | しずおか地酒研究会

 おまたせしました。4月6日しずおか地酒サロンの松崎晴雄さん講座の続きです。

 

 

 

 

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 全国新酒鑑評会100年の副産物のもう一つは、新しい産地を発掘したということです。

 

 明治末にスタートした鑑評会ですが、当時の代表的な銘醸地といえば灘と伏見ですね。東京市場でも認知されており、一般の人には「上方の酒は上物」と浸透していましたし、そういう一般感覚からすれば、鑑評会でも当然、灘や伏見の酒が上位に来るだろうと思われていました。

 

 

 ところがフタをあけてみたら、広島が圧倒し、明治終わりから大正時代にかけ、上位3位を独占するぐらいの勢いをみせ、東京でも取引が始まりました。鑑評会で優秀な成績をとると東京市場で酒が売れるということが認知され、今でも続いています。

 

 

 この100年を見ると、まず広島。そして9号酵母の発祥の地・熊本ですね。熊本は江戸時代まで、清酒造りが温暖な気候に向かないからという理由で禁止されていたのです。今でも熊本ときくと清酒よりも焼酎のイメージのほうが大きいでしょうか。肥後藩では貴重な米を清酒にしても、腐らせてしまうのではまずいということで、清酒造りの代わりに赤酒という、灰を混ぜてアルカリ化したものを造らせたのです。

 

 明治になって清酒造りが許されるようになると、江戸時代のハンディを取り戻そうと、熊本の酒蔵が共同出資して熊本県酒造研究所を設立し、9号酵母の開発に結び付いた。酒どころとしては後発組だったからこそ、先行する産地に追い付け追い越せで努力をし、南の吟醸産地として浮上したというわけです。

 秋田県も今でこそ東北を代表する銘醸地ですが、昔はそうでもなく、全国新酒鑑評会によって産地として認められてきました。

 

 

 静岡県も四半世紀前に鑑評会を舞台に“吟醸王国”としての地位を得ました。鑑評会にかける蔵元や研究者の意気込みが、産地形成につながったといえるでしょう。鑑評会とは、単にモノを造って評価するだけの場ではない、何か造り手を突き動かすものがあって、その晴れ舞台になる場といいますか、そこにかける人々の情熱のようなものが違った次元で昇華する舞台なのでは、と思っています。

 

 

 地方銘酒は鑑評会によって百花繚乱に華開き、静岡県が果たした役割も大きかったといえるでしょう。酒造りの後発県でも、頑張れば一流の銘醸地になるという励みになったと思います。

 

 

 

 さて今日は酒米のお話もしようと思います。ここ30年ぐらいの代表的な品種として山田錦や五百万石、さらに近年開発された品種―静岡県の誉富士も含まれますが、一覧表にまとめてみました。

 

 一般米で酒造りにも利用されている品種もまとめてみました。酒造りに使われている米の7割は、実は一般米で、酒造好適米は3割程度なんです。

 

 

 戦前に造られていた古い品種を復活させた米も増えていますね。漫画「夏子の酒」のブームも手伝ったと思います。その土地の酒造りのルーツを探るという、酵母とは違ったかたちの、地酒本来の姿を探求した成果だといえます。

 

 

 地酒といいながら、兵庫県産山田錦と9号酵母を使った標準的な吟醸酒が多いのも事実です。原材料というところから、その土地の風土性を探る、ワインのような流れがあってもいいと思います。

 

 

 米の難点は、大きな味の違いがないということです。目隠してきき酒すると、ワインならメルローやカベルネソービニオンの違いぐらいはわかるんですが、日本酒の場合はなかなかそういきません。しかも日本酒に使われる米は200~300種類あるといわれます。

 

 

 

 米よりも違いが解りやすいのが酵母です。静岡の酒の味を特徴づけているのが静岡酵母だというわけです。仮に秋田、長野、静岡の酵母の違いできき酒したら、当てられる自信はまあ、あります。

 

 

 鑑評会では1品あたり20~30秒程度できき酒しますので、短時間で訴えかけるものがあれば、当然印象に残ります。よほど欠点がない限り上位にくるでしょう。香りが高い酵母がどんどん増えてきた背景にはこういう理由もありました。

 

 

 酵母は確かにわかりやすいのですが、行きすぎると香りがきつくなる。きき酒は短時間で吐いて判断しますが、飲酒の際、行きすぎた香りの酒では長時間呑み続けることはできません。

 

 

 

 最近の酵母でいえば、福島県のうつくしま煌めき酵母というのがあります。1種類ではなく3種類ぐらいの酵母の総称で、デビューして2年ぐらいの新しい酵母で、香りの小・中・大とそろっているんですね。県として産地イメージを高める意味で、総称統一したようです。

 

 

 

 バイオテクノロジーの発達で、天然の花や植物から酵母を採取し、酒造りに活用したものも増えていますね。東京農大でも花酵母を15種類ぐらい出していますね。カーネーション、しゃくなげ、なでしこの酵母が知られています。酵母開発は日本酒のトレンドを占う意味で一つの重要なファクターであることは間違いありません。

 

 

 吟醸酒はどうしても香りを追い求める酒ですから、香りの出る酵母はこれからも開発され続けて行くと思いますが、非常に酸の出る超辛口酒用の酵母や、色を出す酵母等、日本酒の多様性を広げて行く意味でますます盛んになると思います。

 ただし、吟醸酒の王道を行く、きれいで呑みやすい酒になるスタンダードな酵母があって、特殊な酵母も存在するわけです。静岡の時代があり、秋田や長野の時代があり、今またトレンドが変わっている。各県でも次世代型の造り方に移っています。

 

 米の世界でも、味の出やすい米、精米をおさえてもきれいな米など、いろいろな米も出てきます。酵母ほど簡単に開発はできませんが、山田錦は誕生してから80年もロングセラーを誇っており、この間、山田錦を超える米はなかなか出てきません。全国に1600社ほどある日本酒の酒蔵のうち、1000社は山田錦を使ったことがあるでしょう、それだけ広範囲で使われている米は、他にはありません。

 

 あと20年すれば山田錦は誕生一世紀になるわけで、農家にも酒造会社にとっても膨大なデータが蓄積され、扱いやすくなっているといえます。はたして21世紀中に山田錦を超える米が登場するのか、今世紀中の最大のテーマといえるかもしれません。山田錦と同じような米では意味がないので、まったく異なった切り口で、山田錦を超える米が登場するのか、期待したいところです。

 

 

 

 

 

 このように、日本酒は古いようで新しい酒です。つねに新しい技術が投入され、日々進化し続けていて、ときには元に戻ったりする。そんなところに日本酒の面白みがあるような気がします。

 

 

 新しいといえば、ワインのコンペティションに日本酒部門ができたり、アメリカでは2001年から全米日本酒コンテストというのも行っています。日本から5人、アメリカから5人、計10人で日本の鑑評会とまったく同じやり方で審査します。

 また毎年、2蔵ぐらいずつ海外でミニブルワリーが誕生し、日本語の話せないブルワリーマスターが日本酒を一生懸命造っています。彼らも出来たら鑑評会に出品したいと言っています。技術者としては同じマインドなんですね。いずれ、日本酒のワールドカップみたいな世界規模のコンペティションが開かれて、「今年は南米代表の蔵が優勝した」なんてニュースが世界中を駆け回ることを想像すると楽しいですね。

 

 

 山田錦を超える米の誕生、日本酒のワールドカップ。この2つが今世紀中に実現できるかどうか、どうかみなさんも興味を持って見守ってください。(文責/鈴木真弓)

 

 

 

 

 最後の「今世紀中に実現できるか、山田錦を超える米の誕生&日本酒のワールドカップ」という夢のあるお話、ガツンと来ましたねえ!!また受講生に配っていただいた、各県別・時代別の酒米&酵母の一覧表、松崎さんが長年のリサーチのもとで独自に創り上げた大変貴重な資料です。本当にありがたいです。こういうの、本来は酒米農家や酒販店主やきき酒師等、酒を業務にする人たちのほうがよっぽど参考になるんじゃないかあ。消費者のほうがどんどん知恵を付けてしまうようで怖い(笑)。

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 2次会の日本酒BAR佐千帆は、定員10人の店に30人押し込んで、みなさん立ち呑み状態でガマンしてくれました。カウンターの中に回って給仕役を務めてくれた『正雪』の望月正隆さん、『喜久醉』の青島孝さん、『白隠正宗』の高嶋一孝さん、ありがとうございました。3人がカウンターで接客する姿、お宝モノだったと評判でしたよ。

 無理を受け入れてくださった長沢佐千帆さん、本当にありがとうございました

 


アットエス「一歩」さんUPしました

2012-04-10 08:43:26 | 地酒

 久しぶりに風邪を引きました。数日前から、妙に手足が冷えるな・・・と気になっていたのですが、土曜夜あたりからノドが痛くなり、鼻が詰まるようになり、日曜、無理して所用で東京に行ったのが悪かった。昨日は高熱で丸一日起きられませんでした。

 

 

 そんなわけで、松崎晴雄さんのサロンの報告の続きが書けず、歯がゆい気持ちでいたところ、アットエス編集部から「くいもんや一歩」さんの記事をUPしたとの嬉しい連絡。今週末の沼津DEはしご酒の開催に間に合えばいいなあと思っていたのです。ぜひこちらをチェックしてくださいね!

 

 

 私もきちんと養生して、週末には万全の体調で臨みたいと思います。まだまだ朝晩と日中の温度差がありますので、みなさんも体調にはくれぐれも気を付けて。


松崎晴雄さんの日本酒トレンド講座~2012年鑑評会を振り返る(その1)

2012-04-07 20:50:20 | しずおか地酒研究会

 

 しずおか地酒研究会の春の恒例サロン、松崎晴雄さんの鑑評会講話を4月6日(金)夜、静岡市産学交流センターB-nestで行いました。いつもの飲食がてらの楽しいサロンとは違い、試飲ナシのまじめな座学講座ということで、参加者は少ないんじゃないかなぁと心配したんですが、30名を超える方々にお越しいただきました。

 

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 まだ仕込み作業が片付いていない、本当に疲れのピーク時にもかかわらず、『白隠正宗』『正雪』『杉錦』『喜久醉』の蔵元さんも、参加者全員の手土産用の酒持参で駆けつけてくれました。

 ご家族や職場の友人を誘って来てくれた方も会員もいて、翌朝さっそく「松崎さんの話は何度聞いてもいいなあ、勉強になるなあ」と感想メールをくれた人もいました。やっぱりたまにはまじめな講座もいいなあと自己満足しちゃいました 松崎さん、ご参加のみなさま、本当にありがとうございました。

 

 さっそくですが、松崎さんの講演内容を2回に分けて紹介します。

 

 

 

 

 こんばんは。この時期、毎年、静岡へお招きいただき、熱心に聴いてくださってありがとうございます。

 まず静岡のお酒との出会いからお話しましょう。今から32年か33年ぐらい前、学生時代の合宿で御殿場の『富士自慢』という酒に出会い、すいすい呑んで翌日ひどく二日酔いになったという思い出があります。今思うと静岡酵母の酒ではないかと思いますが、当時、日本酒に興味を持っていろんな酒を飲んでいた中で、非常にきれいで飲みやすく、静岡にもいい酒があるんだと強く印象づけられました。

 

 静岡とのご縁といえば、私の義兄がこの春から静岡伊勢丹に勤務することになり、新たなご縁ができました。静岡のみなさんとは、以前にも増していろいろお会いできる機会が増えることを楽しみしています。

 

 

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 では本題の、今年の静岡県清酒鑑評会のお話から入りましょう。

 お酒の品質コンテスト―鑑評会は、3月中旬から5月にかけ、新酒が出来上がる時期に出来栄えを競うもので、いろいろな鑑評会があります。県単位では3月中旬、東海4県管轄の名古屋国税局鑑評会が4月(現在は秋開催)、最も大きな全国新酒鑑評会が5月下旬に行われます。全国新酒鑑評会では、文字通り全国から1000点近い酒が出品されます。

 

 静岡県清酒鑑評会は、吟醸酒の部・純米酒の部と2つあり、点数を付けて順位を決め、最上位の蔵に県知事賞が授与されます。順位を発表している県はあまり多くなく、それだけに名誉なこととされています。

 

 今年の審査は大接戦でした。通常、全国でも一審(一次審査)→二審(二次審査)ぐらいで決まるのですが、今年の静岡は四審まで行きまして、最後も決戦投票でした。純米酒の部も三審まで行きました。合わせて100点ぐらいの出品酒を、計8審まで行ったわけで、審査員にとってはヘビーな体験でしたが、非常にレベルの高い審査だったと思います(結果はこちらを)。

 

 審査はどうやるのかというと、米や醤油や発酵食品等いろんな食品の審査がある中、酒は、人間のきき酒(=官能審査)だけで決めます。静岡県では11人の審査員が官能審査を行い、各出品酒に1点から3点までどれかを付けます。1が優秀、2が普通、3が欠点あり、というシンプルな付け方で、合計で○点以下のものを二審まで持って行くというわけです

 

 一審の出品酒40数点のうち、通常は半分ほど落ちるところ、今年は10数点しか落ちず、二審、三審も半分以上が残ったため、大接戦になりました。

 今期は寒くて酒造りに適した気候だったということ、昨年秋の米の出来が良かったことなど理想的な醸造環境にあったことも理由に挙げられると思います。静岡だけではなく他県でも同じことですが、とくに静岡の審査は粒ぞろいで甲乙つけがたかったですね。

 

 

 全国新酒鑑評会は今年で100回目という節目を迎えます。戦争中と、主催する酒類総合研究所が東京から東広島へ移転したときを除き、100回続いているんですね。ワインやビールにもコンペティションがありますが、全国規模でやっているコンテストで100回も続いているもの、しかも内容的にも非常にレベルの高い技術コンテストというのは世界でも稀有な存在です。

 

 なぜこのような鑑評会が行われたかといえば、日本酒はかつて税収の柱であり、明治末期頃は税収の3割を占めていました。ただ今と違い、酒造技術や醸造技術は稚拙で、品質劣化がしばしば起き、メーカーにとってはもちろん、税金をあてこんでいる国としても困るということで、国で醸造試験所という施設を造り、レベルアップを図ったのです。ここで始まったのが全国新酒鑑評会で、技術レベルを引き上げ、品質を安定させるということが第一義でした。

 

 

 全国の鑑評会には2つの大きな副産物があると思っています。ひとつは、鑑評会からさまざまな酵母が生まれ、実用化されたということ。

 酒造りの酵母菌は、有名なところで7号酵母、9号酵母等がありますが、ちゃんと1号から、今は18号酵母まであります。酵母を専用に培養している日本醸造協会という業界団体が、実用化した順に番号を付けています。

 

 現在、使われている協会酵母で最も古いのは6号酵母で、大正時代に秋田の「新政」という蔵から出たものです。有名な7号酵母は昭和21年、長野の「真澄」から出たもの。9号酵母は熊本の「香露」から出た香りの高い酵母で、吟醸酒向けにもてはやされました。私たちが現在、イメージする香りの華やかな吟醸酒のイメージは、9号酵母が確立したといってよいでしょう。

 

 

 こういう酵母が発見されたきっかけは、鑑評会で成績の良かった蔵に醸造試験所の技術者たちが調査に行って、酵母に着目したという経緯があります。いい酵母はいい酒になるばかりでなく、安全で失敗の少ない酒造りにつながります。税収確保という面からも、いい酵母を選抜して安全な環境で培養するようになったわけですね。

 

 

 静岡でも昭和61年に全国新酒鑑評会で金賞10点を獲得し、大いに注目を集めました。その年、金賞は全部で120点ぐらいでしたので、静岡県はかなりの割合を占めた訳です。酒どころとしては無名だった静岡県の快挙に、他県の蔵や研究機関は大いに驚き、静岡酵母に着目し、やがて各県の酵母開発に勢いが付き、秋田や長野で独自酵母が誕生しました。長野県ではアルプス酵母という静岡酵母とはタイプの全く違う酵母が造られ、その後、鑑評会で大量入賞しました。香りも味も非常に厚みのある酒に仕上がるんですね。

 

 静岡酵母の香りは、よく、リンゴの爽やかな香りに例えられますが、秋田県が開発した「秋田流花酵母」の酒はパイナップル様といいますか、口中でパッとはじけるようなトロピカルフルーツのような香りで、味も濃密でトロンとした派手なものです。こういう酒が鑑評会でも大量入賞するようになりました。

 派手な香りや味の酒が一世風靡した時期もありましたが、今、ふたたび、静岡タイプのおだやかな酒が復活しつつあるようです。静岡は全体に酒質がおだやかでやわらかい。香りはフレッシュで新酒の時期は硬さもあるんですが、今年はとくに荒さが目立たず、味ものっていた、と思いました。

 

 

 香りの特徴というところでせめぎ合ってきた吟醸酒ですが、このところ味との調和が重視され、造り手の意識も変わりつつあるといえます。呑んで美味しいというのが本来の酒であり、あくまでも“呑める吟醸酒”を目指してきた静岡県の取り組みが、見直されていると実感します。(つづく)


「沼津DEはしご酒」のお知らせ

2012-04-06 13:41:21 | 地酒

 静岡、清水、藤枝等で好評を博す「はしご酒」イベント。ご存知の方も多いと思いますが、この春は沼津で開催されます。先日所用で訪ねた『白隠正宗』の高嶋酒造さんで強力プッシュされました。はしご酒仕掛け人の山口登志郎さん(「湧登」主人)も、再三沼津を訪ねて協力店を探し、事前レクチャー等もされたようです。私も頑張って遠征しようと思います。県東部地区の方、ぜひ参加してくださいね!

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沼津DEはしご酒

静岡、清水、藤枝等で好評開催のはしご酒イベント。
今回は沼津駅周辺の4店舗で行います。
各店に、静岡県の銘酒を醸す蔵元がスタンバイし、
蔵元お薦めの酒1杯&お店自慢の酒肴1品で1000円。
時間内に4店舗グルグル回って、大いに酒談議を楽しみましょう!

 

■日時 4月14日(土) 17時30分~21時

■場所 沼津駅南口周辺の4店舗
○くいもんや一歩(三枚橋町)、○創作居酒屋「縁」(添地町)、○海鮮居酒屋「半蔵2」(大手町)、○ご当地料理「さえ丸おじさん」(上土町)
*駅前で参加店MAPを配布します。

■参加蔵元 開運、金明、高砂、白隠正宗

■参加費 1店舗につき1000円

■問合せ はしご酒推進委員会 湧登(山口)054‐284-5777

 アットエスのイベントコーナーにも投稿しておきました。こちらをぜひ。

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 なお、今回、核となる「一歩」(沼津市三枚橋町・沼津市立図書館の駅寄り筋向い)を、アットエスグルメの地酒の店コーナーに掲載しようと取材に行ってきました。

 

 中華の店なんですが、なんと、常時1600円で地酒飲み放題なんです。飲み放題をウリにするチェーン居酒屋は結構あるけど、本格中華料理が食べられて、普通酒~大吟醸まで仕入価格にかかわらず、飲み放題で1600円って、酒呑みにとっては危険極まりない?(笑)店です。はしご酒イベントでは1000円で1杯しか飲めないのが残念なくらい(笑)。アットエス掲載の折はお知らせしますので、乞うご期待を!