1月11日付 読売新聞編集手帳
小説家の故・豊島与志雄の随筆より。
〈衆に媚(こ)びず、
孤独を恐れず、
自己の力によって自ら立ち、
驕(おご)らず卑下せず、
霜雪(そうせつ)の寒にも自若(じじゃく)として、
己自身に微笑(ほほえ)みかくる、
揺ぎなき気(き)魄(はく)である〉。
梅の花を語っている。
未来社『豊島与志雄著作集第6巻』から引いた。
いかがだろう。
種明かしをしなければ、
女子サッカーの日本代表(なでしこジャパン)を取り上げた論評と
勘違いする人がおられるかも知れない。
梅花の〈気魄〉には、
脚光を浴びることのなかった女子サッカーで不遇の季節に耐えて昨年、
ワールドカップ優勝を果たしたなでしこたちに通じるものがあろう。
主将の沢穂(ほ)希(まれ)選手(33)が
国際サッカー連盟の「女子世界最優秀選手」に選ばれた。
あなたのつけた足あとにゃ きれいな花が咲くでしょう…と
『三百六十五歩のマーチ』にあるが、
国民栄誉賞や菊池寛賞などに続いて、
足跡にまた大輪の花が咲いた。
なでしこの優勝は暑い夏のことであったが、
心の温度で計るならば震災後の列島を〈霜雪の寒〉が包むなかで、
救いのような朗報であったのを思い出す。
ひとの“足あと”ほど美しい花器はない。