1月17日付 読売新聞編集手帳
タマネギに涙はつきものである。
〈玉葱(たまねぎ)の皮剥(は)ぐ時に易々(やすやす)と人にも見せて涙ながせる〉
(富小路禎(とみのこうじよし)子(こ))。
別に理由があっての涙を、
タマネギにこと寄せて流した経験は歌人に限るまい。
17年前の1月16日、
兵庫県芦屋市の米津漢之(よねづくにゆき)君(当時7歳)と深理(みり)ちゃん(同5歳)は
生まれて初めて、
翌日の夕食用に二人でカレーを作った。
兄と妹はこの記念すべき合作のカレーを口にすることができなかった。
二人は翌朝の地震で亡くなる…。
「私には会ったことのない兄と姉がいます」。
2年前、
震災の追悼式典で小学6年生・12歳の米津英(はんな)さんが挨拶した。
「わが家では毎月17日にカレーを食べます」。
今夜もそうだろう。
阪神大震災からきょうで17年になる。
歳月は流れても、
親御さんの耳には幼い二人がはしゃぎながら料理をする声が
いまも聞こえるであろうことを思うとき、
タマネギをむくお母さんの目頭は想像するまでもあるまい。
カレーか、
ハンバーグか、
亡きわが子の好物で献立を考えているお母さんは多いことだろう。
1月17日のタマネギは、
3月11日のタマネギは、
普段にまして目に染みるはずである。