2月5日 編集手帳
学問の神様・菅原道真をまつる東京の湯島天神には、
早咲きの白梅の下、
合格祈願の絵馬が鈴なりである。
欲張りな<実力以上の力を出せますように>にいったん苦笑し、
<父母より>と続くのを見てほろりとする。
進学を応援したくても、
家計が許さぬ親御さんもいるだろう。
吉川英治は父が事業に失敗し、
小学校を中退した。
奉公先で角帯前垂れ姿を笑われ、
声をあげて泣いた。
職を転々とした青少年期を振り返り、
<正当な学歴を、
順当に通ったよりは、
この方が、
人生見学にも、
習得にも、
たしかにぼくを益してくれた>
(『焚き反古の 記』)と記している。
弱者に寄り添った国民的作家は、
疎開先の東京西部・吉野梅郷の素朴な暮らしを好み、
戦後に塩や焼酎が手に入るようになると、
真っ先に梅干しを漬け、
梅酒を造った。
そんな吉野の梅も、
昨春を最後にほとんどが伐採された。
果実が変形するプラムポックスウイルスの感染が広がったためである。
さぞや寂しい春になろう。
湯島の梅は、
今のところ感染を免れている。
花咲かぬ境内では縁起も悪い。
受験生のため、
道真公には愛する梅を守ってほしい。