日暮しの種 

経済やら芸能やらスポーツやら
お勉強いたします

人の子は抱かれて生くるもの

2015-02-28 13:50:19 | 編集手帳

2月28日 編集手帳

 

夏目漱石の『三四郎』に〈ストレイシープ=迷える羊〉が語られている。
新約聖書のマタイ伝が出典らしい。
100匹の羊のうち1匹が迷えば、
羊飼いは99 匹を残してでもその1匹を捜し求める…

「命令された万引きを断ったら、
 暴力を振るわれた」
「学校には行くな、
 と言われている」。
公園で出会った小学校時代の同級生に、
少年は目の周りや腕にあざの残る姿で語ったという。
残忍な狼(おおかみ)の群れに捕らわれた小羊の孤独を思う。
絶望を思う。

首や顔などを刺されて殺された川崎市の中学1年生、
上村遼太君(13)である。

抜けたくても抜けることを許さなかったグループの、
少年3人(17~18歳)が殺人容疑で逮捕された。
ここに吐き出し、
叩(たた)きつけたい言葉をいまは腹に飲み下し、
犯行の全容解明を待つ。

〈子は抱かれみな子は抱かれ子は抱かれ人の子は抱かれて生くるもの〉(河野愛子)。
学校と警察と家族が手を合わせて繭のように幾重にも抱きしめ、
狼どもの牙から小羊を守ってやれなかったか。
誰もが深い悔恨とともにわが身を責め苛(さいな)んでいるだろうことは承知しつつ、
やりきれぬ思いが胸を去らない。

コメント

歌舞伎界の柱ばかりをなぜですか

2015-02-28 07:30:00 | 編集手帳

2月24日 編集手帳

 

城郭を愛した人である。
『粋な城めぐり』という著書もある。
城は自然の地形を巧みに利用して造られている。
「自然と建造物の織りなすハーモニーの中に身を置くのが何よりの楽しみです」と語った。

急逝した踊りの名手、
歌舞伎の十代目坂東三津五郎さんである。
セリフと所作の約束事という伝統の“建造物”に、
人の情けという万古不易(ばんこふえき)の“自然”を調和させる。
その人には、
芝居が城郭であったのかも知れない。

「今日ただ一人の弁慶(『勧進帳』)であった」と演劇評論家、渡辺保さんの三津五郎評にある。
59歳は若すぎよう。

八十助時代の弁慶を歌舞伎座で見たことがある。
富樫(とがし)は勘九郎当時の十八代目中村勘三郎さんが演じた。
同世代の好敵手にして盟友だった勘三郎さんも57歳で世を去り、
もういない。
歌舞伎界の柱ばかりを、
なぜですかと、
芝居の神様に問うてみる。

以前、
『旅』の題で俳句を本紙に寄せた。
天下統一の志なかばで世を去った織田信長を偲(しの)んだのだろう。
琵琶湖岸に安土城の跡を訪ねた折の作がある。
〈安土山夢置き去りにさみだるる〉。
夢を置き去りに。
自画像のようで切ない。

コメント