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お前と話そ夢に来(こ)よ

2015-02-14 08:00:00 | 編集手帳

2月7日 編集手帳

 

親を亡くした子供を孤児という。
伴侶を亡くした人を寡夫、
あるいは寡婦という。
子供を亡くした親を呼ぶ言葉はない。
なぜだろう。

「その痛みは言葉に尽くせないからだ」。
かつて〈9・11〉テロの追悼式典で、
当時のニューヨーク市長が述べた言葉である。
日本語だけでなく英語にも言い表す単語はないようである。

和歌山県紀の川市の空き地で、
小学5年生の森田都史(とし)君(11)が男に複数の凶器で襲われ、
殺害された。
言葉に尽くせない痛みをたとえ万分の一でも和らげる手だては、
犯人に罪を償わせること以外にはあるまい。

川柳作家の麻生路郎(じろう)に〈湯ざめするまでお前と話そ夢に来(こ)よ〉の一句がある。
病没した小学生の長男に語りかけた一周忌の作という。
病床で静かに命を終えた子にも、
残された親が「お前と話そ。おいで」と言えるまでには1年という時間がかかる。
胸を刺され、
全身に10か所もの傷を負って死んだわが子に夢で会い、
何を話せるだろう。
抱きしめて泣くばかりに違いない。

むごい人質事件で、
うなだれた父の背中と、
やつれた母の涙を見たばかりである。
名のみの春がいっそう寒い。

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