10月13日 読売新聞「編集手帳」
もとは南宋の詩人、
陸放翁が綴つづった言葉なのだという。
病床にあった秋の日、
酒の酔いに乗じて筆を走らせた。
その勢いを自らの詩の中で「青天、霹靂へきれきを飛ばす」と表した。
青い空に突如鳴り響く雷鳴、
転じて思いがけず起こる突発的な事変を指す。
雷が鳴ろうが槍やりが降ろうが、
ピッチに立たせてくれ。
選手たちは心底願ったに違いない。
台風19号の影響でラグビーW杯の試合が中止となった。
9回を数える大会で初めての措置である。
安全を考慮すれば当然の策だろう。
けれど絞り出された言葉に胸が痛む。
「この辺りの公園でもよかった。
ラグビーができればどこでもよかった」。
身長196センチ、
体重108キロ、
イタリア代表を引っ張るパリセ主将は、
記者会見でうなだれていたそうだ。
中止で決勝トーナメントへの道が断たれた。
イタリアは先月22日の初戦でも雨に見舞われた。
試合後、
スタンドに深々とお辞儀をした理由を「最後まで見てくれた観客への感謝の気持ちだった」と語っていた。
決戦を前に開催地の児童らがイタリアの国歌を選手に披露したとも聞く。
人々の思いをなぎ倒していく台風がつくづく恨めしい。