10月17日 読売新聞「編集手帳」
あまどい。
そう聞くと、
<雨樋>…民家に必ずある屋根の雨水を流すものを浮かべるが、
同じ読みで<雨訪>なる言葉もある。
『雨のことば辞典』(倉嶋厚・原田稔編著、講談社学術文庫)に教わった。
大雨のあとに知人の家へ見舞いに行くことを、
九州地方でこう呼んだと解説にある。
台風の通り道となる九州では、
お互いを助け合う習慣があったのだろうか。
温かな響きがある。
台風19号で被災した県の地方版を見ると、
多くの人が支援に駆けつけていることがわかる。
千曲川の支流が氾濫した長野県飯山市には約50人のボランティアが集まったという。
今夏甲子園に出場した飯山高3年倉科勇雅さんは言う。
「支えてもらった人たちのため頑張りたい」。
顔に泥を飛び散らせながら、
ぬれた畳を民家から運び出す作業に追われた。
岩手県釜石市ではラグビーの試合が中止になったカナダ代表チームが、
スコップを手に泥をかき出す作業にあたった。
厚情を生活再建の気力に変える被災者の方は少なくないだろう。
災害ごみの処分、
停電、
断水、
朝晩の寒さ…試練の中に一筋の光のように<雨訪>の景色ものぞく。