ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

ポセイドン・アドヴェンチャー

2005年07月05日 | 映画

【注:ネタバレあります】

 
 「パニック映画」と呼ばれるジャンルがあります。
 天変地異や不慮の大事故に遭遇した人々の、文字通り「パニック」状態を描くものです。 
 この種の映画の見どころは、多彩な出演者の顔ぶれ、不測の事態の時に出る人間の本性の描写、迫力ある災害のシーン、などでしょうか。


 ぼくが「ポセイドン・アドベンチャー」に惹かれる理由は、ジーン・ハックマン演じる、主人公のスコット牧師のキャラクターにあります。
 スコットはいわゆる「はみだし」牧師で、そのため教会から疎まれています。
 彼は、「苦しい時、ただ神の助けを待つのではなく、助かるためにできる限りのことをしてこそ、神は助けの手を差し伸べて下さるのだ」という強烈な信条の持ち主です。
 しかし教会は、これはキリスト教に対する無礼な批判だとして、スコットに遠い国での布教を命じます。つまり「左遷」させられるわけです。





 スコット牧師の乗った豪華客船「ポセイドン号」は、ニュー・イヤーズ・イブのパーティの最中に津波に呑まれ、地中海で転覆します。このため、船の最上階にあったパーティ会場は一転して船の最深部となるのですが、ここからスコットの脱出劇が始まるのです。  
 スコットは自分の信条に従い、生き伸びるために最善を尽くそうとします。そのため、現場にじっととどまって救援を待つべきだ、とする人たちとことごとく衝突します。
 しかしスコットは屈しない。決して信念を曲げません。


 保守派、つまりスコットが言うところの「ただ神の助けを待っているだけ」の側の代表として描かれているのが、行動を共にはしているが、スコットに批判的なロゴ(アーネスト・ボーグナイン)です。
 この二人の対立を、そのまま現代の社会に置き換えて見てみると、非常に興味深いものがあります。








 もちろん、極限状態におけるヒューマニズムも見どころのひとつです。スコットと行動を共にする9人のうち、脱出行の途中で何人かが命を落とします。自分の命と引き替えにスコットを救う老婦人や、不測の事態で転落死したロゴ夫人などです。しかしそれでもスコットは信念を曲げない。最愛の妻を失って激高したロゴに詰め寄られても。


 クライマックスでスコットは、自らの命を捨てて、最後の出口のドアを開きます。スコットの行動は彼の信念そのものだったことが、自身の死によってようやく証明される、辛いシーンです。
 頑固そのものだったロゴも、スコットの死によってやっと彼の生き方を受け入れることができるわけですね。


 





 見どころはアクション・シーンだけではない、深い作品だとぼくは思います。
 登場人物の個性は、そのまま緊急時の人間が見せるいろいろな面を表しているのではないでしょうか。
 そのなかでぼくはやはり、信念を貫くこと(エゴと紙一重、ということも含め)というか、妥協をしない生き方について一番考えさせられました。
 もっとも共感したのがレッド・バトン演じるマーティンです。
 普段は地味で目立たちませんが、こういう時にも普段どおりで、みんなを元気づける。自分もこうありたい、と思いました。
 また、ロゴの描写によって表された内面もまた人間だれしも持っている一面。これを「良くないこと」とみなして、否定すべき人格のサンプルにしてしまってはならないと思います。
 あまりにも有名な映画だと思うので、あらかたの筋を書いてしまいましたけれど、例え事前にストーリーを知っていたとしても、この映画の面白さは損なわれることがない、と思います。



おもな出演者で記念撮影


 最後に、小さな話題をふたつ。 
 ひとつめ。さえない中年の独身男を好演したレッド・バトンズ(マーティン役)。日本人ミュージシャンの海外進出の先駆けとなった人のひとりに、ジャズ・シンガー兼女優のナンシー梅木がいますが、バトンズは梅木嬢がアカデミー助演女優賞を受賞した映画『サヨナラ』(1957年)で梅木嬢の相手役を務めています。 
 ふたつめ。この映画の原作者はポール・ギャリコです。イギリスのキャメル(Camel)というグループが、「スノウ・グース」というせつない小説を題材にした同名のアルバムを発表していますが、ギャリコは「スノウ・グース」の原作者でもあります。



◆ポセイドン・アドヴェンチャー/The Poseidon Adventure
  ■1972年 アメリカ映画(配給 20世紀フォックス)
  ■監督
    ロナルド・ニーム
  ■脚本
    スターリング・シリファント、ウェンデル・メイズ
  ■製作
    アーウィン・アレン
  ■撮影
    ハロルド・F・クレス
  ■音楽
    ジョン・ウィリアムス、アル・カシャ、ジョエル・ハーシュホーン
  ■出演
    ジーン・ハックマン(フランク・スコット牧師)
    アーネスト・ボーグナイン(マイク・ロゴ警部補)    
    レッド・バトンズ(ジェームズ・マーティン)
    キャロル・リンレー(ノニー・パリー)
    ステラ・スティーブンス(リンダ・ロゴ)
    ジャック・アルバートソン(マニー・ローゼン)
    シェリー・ウィンタース(ベル・ローゼン)
    パメラ・スー・マーティン(スーザン・シェルビー)
    エリック・シーア(ロビン・シェルビー)
    ロディ・マクドウォール(エイカーズ)
    アーサー・オコンネル(ジョン牧師)
    レスリー・ニールセン(ハリソン船長)
    フレッド・サドフ(造船会社オーナー・リナーコス)
    ジャン・アーヴァン(船医)
    シーラ・マシューズ(看護婦)
  ■上映時間
    117分
  ■原作
    ポール・ギャリコ『ポセイドン・アドヴェンチャー』(1969年)


コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする