「破滅的な生き方」を認めるタイプです、ぼくは。
でも、それは、単にやりたい放題のムチャクチャな人生を送ることではなくて、安定した生活や平穏な日常よりも、自分の本当にやりたいこと、生き方を貫くことだ、と自分では捉えています。
この映画は兄フランク(ボー・ブリッジス)と弟ジャック(ジェフ・ブリッジス)の売れないツイン・ピアノ・ユニットと、ボーカリストのスージー(ミシェル・ファイファー)の物語です。
大向こうを唸らせるような作品ではないかもしれないけれど、ぼくにとっては心にしみいるような、せつなくて甘酸っぱい映画です。
左から ボー・ブリッジス、ミシェル・ファイファー、ジェフ・ブリッジス
兄フランクは、ミュージシャンという不安定な世界で生きていながら、安定を大切に考えるタイプ。だからたとえつまらない仕事であっても契約した以上はきちんとこなし、温かい家庭を守っていくことに責任感を持っていて、そういう生き方に喜びを見出しています。
弟のジャックは兄とは対照的です。寡黙でハンサム、抜群の腕前をもつ天才肌のピアニスト。
女性にはモテるし、淡々と仕事をこなして、一見気ままな独身生活を楽しんでいるように見える。でも本当は同じアパートに住む女の子以外は誰にも心を開かない。実はやりたい音楽があるのだけれど、それを隠して意に沿わない音楽を演奏している。そしてそのギャップに内心苦しんでいます。
このふたりは仕事が減りつつあることに危機感を抱き、ユニットに歌手を加えることを決意します。
オーディションの末、選ばれたのがミシェル・ファイファー演じるスージーです。気が強く、強烈な個性を持ってはいますが、内面には寂しさを隠している女性です。
で、このスージーがとても魅力的!
悪態のつき方ひとつ見ても頭の回転の速さが伺えます。
はっきりとした自分の人生観を持っているがゆえに自分の非力さも痛感していて、そのためたくさん傷ついてきている、そんな女性です。
で、スージーの歌う歌がまたカワイイ。歌を通じて自分の気持ちを打ち明けようとしているような、そんな歌いっぷりです。
映画の中では「More Than You Know」「Feelings」「Can't Take My Eyes Off You(君の瞳に恋してる)」などを歌ってくれてます。エンド・ロールでは「My Funny Valentine」も聴くことができます。一聴の価値はあると思いますよ。
売れないバンドマンの悲哀が感じられる映画ですが、ジャックの、「本当はジャズに没頭したい、けれど食べていくためには我慢してヒット・ナンバーも弾き続けなければならない」という葛藤が高じて、兄フランクと次第に対立してゆくようになる様子、せつないです。
そしてジャックとスージーの恋。
反発を感じながらも実は似たもの同士なんでしょうね。自分の道を歩いて行こうとするスージーを見て自分が惨めに思えるジャックだけど、最後はジャック自身も自分の道を進もうとします。
ぼくはジャックの自分の人生に対する葛藤に一番惹かれました。
そして、なによりも、この映画の持つ雰囲気が好きです。ジャズの歴史や音楽性を含めた少し重くて陰影のある、そんな雰囲気を映像で表しているように思えるのです。
この映画の音楽担当はデイブ・グルーシン。
劇中では、「Prelude To A Kiss(キスへのプレリュード)」、「10Cents A Dime」、「Moonglow」、「Solitude」、「Makin' Whoopee」など、たくさんのジャズ・ナンバーが楽しめます。
また劇中で兄弟という設定のジェフ・ブリッジスとボー・ブリッジスは実の兄弟です。
どうりで息の合った演技を見せてくれるわけです。
◆恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ/The Fabulous Baker Boys
■公開
1989年 アメリカ映画
■配給
20世紀フォックス
■製作総指揮
シドニー・ポラック
■製作
ポーラ・ワインスタイン
マーク・ローゼンバーグ
■監督・脚本
スティーヴ・クローブス
■音楽
デイヴ・グルーシン
■出演
ミシェル・ファイファー(スージー・ダイアモンド)
ジェフ・ブリッジス(ジャック・ベイカー)
ボー・ブリッジス(フランク・ベイカー)
ジェニファー・ティリー(モニカ・モラン)
エリー・ラーブ(ニーナ)
デイキン・マシューズ(チャーリー)
ザンダー・バークレー(ロイド)
アルバート・ホール(ヘンリー)
デヴィッド・コバーン(獣医の受付の少年)
■上映時間
113分