わたしの校長在任中のことです。
母親である保護者の方から、ときどきこんな依頼がありました。
「子どもが、この学校に在籍しているかどうか、夫からの問い合わせがあったときには、在籍して通っていることを隠しておいてほしい。」
学校はその意向を受け、問い合わせ等に応じないなどの対応をすることが多いのです。
また、教職員はそのような家庭の事情を把握したうえで、その生徒が日々充実した学校生活を送れるよう支えていくのです。
さまざまな事情により、子どもを連れて母親が父親と離れて暮らしている家庭があります。
そのさまざまな事情の中でも、家庭内暴力(DV)から逃げるために、地域で子どもとひっそりと暮らしている女性(母親)がいます。
その数はけっして少なくないという問題を、今回の新型コロナウイルスがあぶり出しました。
新型コロナウイルス感染防止措置として打ち出された一人10万円の特別定額給付金が、DV被害の問題を顕在化させたのでした。
ご存知のように、給付金は、家族全員のぶんが世帯主に一括して支払われます。
世帯主が配偶者であり、その配偶者から暴力を受け、避難している場所が明らかになるのを避けるため、住民票を移さず子どもを連れて家を出て、他の校区に住んでいる女性たちが自治体の窓口を訪れました。
「給付金をもらうにはどうしたらいいですか」。
給付金をもらうのに自治体の職員に理解があればいいのですが、行政の職員もきまり通り業務を遂行しようとする場合が多く、DV被害者にとって、たいへんだったようです。
市町村の役所や警察を被害者自身がまわって、何度も同じ説明をしたり、申請しなければならず、窓口が一本化されていないという問題が大きくなったのです。
たしかに市町村でも、男女共同参画センターでDV相談を受けている場合があります。
でもDV被害者を一時保護する権限は婦人相談所がもっており、これは都道府県の所管です。
このような行政の構造や連携の不備という課題を、今回のコロナ禍は顕在化させたのでした。
また、今の時代でも、同居していて夫と妻が対等な関係でない家庭が依然としてあります。
夫は、「オレに入ったお金はすべてオレのものだ」と家族への給付金も取り込んでしまい、渡さない家庭もあったようです。
日本の法整備は、諸外国と比べて遅れています。DV法(配偶者暴力防止法)などの充実や被害者支援として相談所や地域にシェルターを整備するなど、課題が多くあります。
学校では、そのような大人の事情とは別に、子どもへの教育の充実に努めます。
日本の法整備は、諸外国と比べて遅れています。DV法(配偶者暴力防止法)などの充実や被害者支援として相談所や地域にシェルターを整備するなど、課題が多くあります。
学校では、そのような大人の事情とは別に、子どもへの教育の充実に努めます。
でも、中学生ぐらいになると、制度の不備に目を向けるようにもなります。
学校ができることは、被害者救済制度の不備があるという現状の中で、せめて子どもには充実した学校生活を願い、サポートすることです。
学校は、基本的に夫婦の問題を変えることはできません。
物事がわかってくる中学生の子どもには、家庭状況を知った上で、清濁あわせ飲み、「自分はどう生きるか」を考えさせ、前を向かせていくのです。