新型コロナウイルスの感染防止策として、全国の学校ではタブレット端末の児童生徒1人1台の整備が一挙に進みました。
このタブレット端末は、子どもの学習スタイルを大きく変える可能性をもっています。
というのは、最近、タブレット端末で使う学習アプリがたくさん開発されているからです。
この学習アプリの多くは、『自学自習』が家庭でできるように工夫されています。
いま主流の学力観は、学習について、自学自習ができる力と習慣をもつことに、重きが置かれています。
たとえば、ある学習アプリでは、数学の場合、数式の空欄が3つあり、そこに記入する数字が選択肢で示されます。
端末の画面はタッチパネルになっていて、答えを書き正解すると、今度は選択肢がなくなり当てはまる数字を自分で考えて記入する(入力する)問題にジャンプアップします。
解答状況がかんばしくない場合は、易しい問題に変わります。
もともと、このような学習アプリは、コロナ渦のまえから、学校よりは学習塾で自学自習教材として広がりつつありました。
私が校長を務めていた2015年には、総務省の『ドリームスクール』の実証研究として、この事業を中学2年生の数学で行いました。
このときの学習アプリは、まだまだ改善の余地があるものでしたが、5年ほどのうちに大きく改善されてきて,今に至っています。
学習塾の講師や学校の教師はアプリを通じて、かりに子どもの学習場面が教室から離れてても、それぞれの子どもの利用状況や学習習熟度を把握できます。
児童生徒にしても、自分で丸つけをしなくてもすむので、答え合わせの時間も短縮できます。
教師も採点しなくてもすみ、その採点結果を管理する機能がアプリについています。
学校の授業はいままで、多様な個性をもつ児童生徒に対して、一人の教師が教えるという学習スタイルが基本でしたが、学習アプリはそれにも変化をもたらす可能性をもっています。
一斉授業の中で、手をあげて発表するのが恥ずかしくてできなかった子も、チャットやコメント機能を使い、意見を言うチャンスが生まれるでしょう。
ただし、タブレット端末で学習アプリを使うには、教員に対して学習アプリの使い方を支援するしくみが必要です。児童生徒にも必要でしょう。
この使い方のサポートがなければ、使える人はどんどん使い学力を上げていき、使えない人は置き去りにされる。デジタルの格差があらたに広がるという危惧もあります。
さらに、一斉授業の経験をもつ教師なら誰でも知っていますが、一斉の対面授業には優れた価値があります。
30名から40名ぐらいの児童生徒がいるクラスで授業をすると、人間関係の多様性をもとに、ダイナミックな学習ができます。
これが学校教育の中での一斉授業の価値です。この醍醐味は、少人数授業や個人学習では経験できないものです。
誰かの発言にユーモアがあり、周りの子が微笑んで受け入れる。自分ではまったく気がつかなかった視点で課題を捉える子がいることに驚く子がいる。
なかまといっしょに学習できる楽しさは、個別学習にはないものです。
このような授業の楽しさを失うことなく、個別学習とうまく棲み分ける必要があると思います。
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