箕面三中もと校長から〜教育関係者のつぶやき〜

2015年度から2018年度に大阪府の箕面三中の校長を務めました。おもに学校教育と子育てに関する情報をのせています。

読書が開く「人生の意味」

2022年02月09日 08時08分00秒 | 教育・子育てあれこれ

「国境のトンネルを抜けると雪国だった」

この一節は川端康成著の『雪国』のあまりにも有名な小説の書き出しです。

なんとなく、この本を手に取った人の心をひきつける効果をもっています。

2021年は10月27日(水)~11月9日(火)までが「読書週間」でした。

それにちなみ、ある書店は「店員おすすめの100冊フェア」を開催していました。

新刊書をはじめ、歴史のある「名作」やコミック本など、ジャンルにこだわらない本が並んでいました。

これは人びとがふだんあまり手に取らない本に出会う機会として展開されたものです。

日本では、ずっと活字離れが進んでいます。

「1週間に何冊本を読みますか」という質問(全国学力学習状況調査)に答えた大阪府箕面市の小中学生の傾向では、中3に近づくにつれ「0冊」と答える子が増えています。

全国の出版業マーケートでは1990年代の中頃をピークに本の販売が縮小しています。本屋(書店)も私たちの町からなくなってきています。

いまや16歳以上の50%近くの人びとが「1ヶ月に1冊も読まない」(文化庁調査)と答えています。

ところが、直近では出版マーケットは2020年には前年と比較して5%近く増えました。そのなかでも電子書籍は30%近く増えたのでした。

これは、コロナ災禍で自宅にいる、いわゆる「巣ごもり」の効果でないかと思われます。

とはいえ、小中学生・高校生の「本離れ」は依然として課題です。

まして、文科省の示す学習指導要領(高校編)では、新設の科目「現代の国語」の教科書から小説を載せないという方針が示されました。

これからを生きる若い人たちには論理的・実用的な文章を読まなければ、世界の動きについていけない。

その考えから、小説が外されてきたのです。

小説って価値のないものでしょうか。

わたしはけっしてそのようには考えません。

中1のとき、国語の教科書に載っていた(今も載っています)『トロッコ』(芥川龍之介)に、わたしはとても感銘を受けました。

良平の体験と私自身の体験が重なり、すがるように1ページずつを読んだのを思い出します。

じつは文学の魅力を知るのは、教科書がきっかけになることも多いのではないでしょうか。

そのように『トロッコ』は自分の体験の意味を知るのに役立ちました。

続いて、同じく中2の国語教科書に載っていた『走れメロス』(太宰治)からは、友だちとの関係と葛藤という、当時の私にとっての未知の世界に触れることになりました。

さらに、中3の国語の教科書に載っている定番の小説・魯迅の『故郷』では、自己と社会の関係を扱っています。

教科書に限らず、図書館で手に取った本がその人に「人生とはなにか」を考える大きな示唆を与えてくれるのが小説です。

小説を読むことで、読者は心が揺さぶられるのです。

それは、大人であっても同じだと思います。

小説や本を読み、みずからの内面世界を耕すことができます。

いくつになっても本に親しみたいと思います。


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