ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

「みかんはなきの会」の山口県立美術館 雪舟展 での実践を紹介します(2019,11,30開催)

2020-01-13 11:34:43 | 対話型鑑賞
 みるみるの会研修会(前回の記事2019年12月28日参照)にも参加いただきました「みかんはなきの会」(山口の鑑賞学習研究会)より、対話型鑑賞会のレポートが届きましたので紹介します。


みかんはなきの会 20191130 山口県立美術館
「騎獅文殊・黄初平・張果老図」(三幅対) 雪舟等楊 室町時代 
ナビゲータ 津室和彦

1 事前の心づもり


 三幅対のユニークな作品である。一幅ごとに,人物がひとりずつ・動物がひとつずつ描かれていて,互いに対比的にみることができる。というより,みてしまう。ポイントは,二幅や三幅を繰り返し往復しながらみていくことだと考えた。他にはモチーフはなく,一見少ない情報の中で,どう深められるかが課題だと思った。
 学芸員によるギャラリートークを聴き,題名でもある作中人物のエピソードもわかったので,話し合いの中でそのような情報を示せるタイミングが来たら,提供していこうと考えた。

2 記録と考察 ナ:ナビ発言 A~L:参加者の発言 (※青字は考察)

ナ:真中の軸には,何が見えますか。 
A:女性
ナ:女性だと思ったのは?
A:髪の長さと曲線的な服の描き方
B:ライオンか竜のどちらかに,女性が座っている。麒麟かもしれない。何の動物かわからない。
 ※1分間の個人鑑賞の後,「三幅のうち,気になるのはどれですか。」と参加者の意識を尊重してトークをスタートする方がよかった。
 ※最初は,三幅からどのような話題が出るか,鑑賞者に任せても良い。言いたいことがある人に,ざっと言ってもらう。その後話題として挙がったものを,一つずつ丁寧にみていくという流れ。

ナ:左右の軸でもいいです。
C:右側の軸,おじいさんが何かを見つけて自分の裾を持って手を伸ばしている。
ナ:もうちょっと詳しく。
C:右の袂を左手でつかみ,右手を伸ばしている。
D:右の人の鼻の下に薄い線があって,鼻息なのかなと。興奮している感じ。
E:わくわくしながら,何か取っている。取りそう。「何かなあ。」って感じ。
ナ:何かって,何?おじいさんらしき人が,鼻息荒く,一生懸命取ろうとしているものは何か?
F:左下のあれは,角が生えていて山羊みたい。山羊が倒れているのを見て,「あ,いいもんみっけ!」口角が上がって微笑んでいるみたい。
ナ:みなさん,どれが山羊か大丈夫ですか?ちがうよっていう人いませんか?死んでるんですか?
F:あとの2つが動物だから,動物つながりなんじゃないかと思って,無理矢理つなげてみた。
ナ:今,動物つながりという発言があったが,左のはどうか?
 ※あとの2つという発言から,左側の一幅についても発言を促した。
 ※右の作品の「こまとめ」をして左へ移ると良かった。山羊→羊と修正し,正確な情報を示して移る。

G:こっちの絵もおじさんが描かれていて,同じように左手で右手の袖をつかんでいて,右手が出ている。
ナ:左右の軸には,共通点があるのではないか。
 ※「同じように」という発言が示すように,どちらも手に動きがあるという発言が出てきたので,そのことが動物とどう関係しているかを見て欲しいと思い,促した。
 ※共通点とだけ言ったが,例えば,「二人の手についてじっくり見てみましょうか。」と焦点化するほうがよかったと反省。
 ※さらにいうなら,焦点化よりも動作化がベター。

H:左は,馬ですよね。ただ,馬にしてはあまりにも小さい。
ナ:頷きがたくさん。馬というのは大丈夫ですか?みなさん。納得ですか?Hさんは首傾げているが,馬にしては小さいと言われ,それに頷き多数ですが。どこから,馬だと考えたのか。
 ※後の発言で,犬と思っている人もいると分かったが,ここも人と馬のスケールの違和感にもっと焦点化して,深く考えるよう揺さぶればよかった。馬の小ささに共感している人は多くいたのだから。また,大きさについて突っ込んだ議論となれば,その過程で犬だという発言も引き出せただろうと思われる。
H:尻尾,後ろ脚と前脚の感じ,たてがみ,馬なんだろうけどそれにしては小さくかかれていて不思議。
ナ:真中は,ちょっと大きくて強そうな動物に乗っている女性,左右は,どちらも中高年の男性がどっちも手を伸ばしていて,なぜか動物がいる。三幅で一つの作品なので,共通点差異点も含めて全体を考えてみましょう。
F:左は,馬が小さいのではなくて,もしかしたらおじさんが大きいのかもしれない。とすると人間ではあり得ないので,もしかしたら仙人か何か霊的な偉大なものなのかな。
ナ:馬は普通サイズ,相対的なもの。おじさんは,特別な存在ではないかという意見。右のおじさんはどうでしょう。また,真中の女性は,何者で何をしているのか。
B:左は犬に見えて,おじさんが右手に何か丸っこいものを持っている。自分の想像ではそれは餌で,おびき寄せて捕まえようとしているのではないか。右側の絵も,何かを捕まえようとしていて,両側は動物を捕まえようとしているおじさん。真中の女の人は,動物の味方で,「なんてことするんだ。」という思いで見ている仏様のような。
ナ:動物愛護団体?なぜ,女性は,動物を捕ろうとしていると左右のおじさんたちをにらんでると言われましたっけ?
B:女性の表情を見ると悲しげで「やめて」と言いたいのか。
ナ:表情から,動物を捕ろうという行為には賛成できないと。
ナ:真中の女性のことが出ているが,真ん中の女性の立場というか,左右の人物との関連があるのかないのか。
I:真中にあるということは,格が一番高い。獅子みたいな動物もちゃんと言うことを聞かせられる。左右は言うことを聞かせられていないから,やっぱり真中が一番偉い。力がある。
ナ:獰猛な獣もちゃんと服従させている。コントロールしている。左右のおじさんたちは,そこまでではない。
J:真中の人はやっぱり格が高そうに見える。後ろに丸があって,あれは何なんだろう。
ナ:先ほどは太陽か月じゃないかと。
J:格が高いから,やはり光が見えているのかと。
ナ:それはもしかして光背。光背があるということは?
J:神様か仏様。
ナ:左右には光背はない。センターは,やっぱり格も高いし力もあるんじゃないかという皆さんの意見かと思うが。
A:真中は神様,太陽の天照ぐらい上なのかな。左右は人間の男の浅ましさ。だとしたら,女性は1cmでもいいから上にかいてくれたら,格上な感じがもっとわかるのに。
ナ:基底線,足下のラインがそろっている。三つ通しての気づき。絵からは,真中が偉いように見えるが,なぜ上にかかなかったのかという疑問がある。
K:女の人のお腹の辺りに入れ墨みたいな模様ものが見え,頭のてっぺんが丸い変わった髪型をしていて,魔女のように見える。獅子が足下に魔法の杖みたいなものを守っているように見えるので,魔術を使う女の人なのかなと思う。
ナ:やっぱり特別な存在。光背,それから獅子を従えている,魔法の杖らしきものもある。そして入れ墨?そんなものから,やっぱり人間ではない特別な存在ではないかと。
F:左の方は,手に瓢箪みたいなものを下向きに持っている。もしかしたら,あの馬は,薬か何かで縮めたか中国の伝説にある(瓢箪に)吸い込んじゃうものじゃないかと。大きさも(真中と)同じぐらいに描かれているし,左右の男性は冠をつけて沓も履いているので庶民ではなさそう。真中は光背もあるから仏様だと思うのだが,左右もちょっと偉い人なんじゃないかなと。
ナ:瓢箪,見られましたか?左のおじさんが右手に持っている丸いもの・・・瓢箪から?・・・駒!そうなんです。張果老。右側も共通点で冠と沓と言っていただきましたが,こちらも仙人をえがいていると考えられます。仙人だけに,普通の人間にできないことがあるようなんですが・・・時間が来たので,言い残したことがある人はどうぞ。
 ※右隻,黄初平の仙術について,参加者も気になってきたところで時間となった。ナビとしては,羊の頭部・前脚がわずかに描かれていることと手を伸ばしただけという要素(情報)の少なさから,石⇔羊と変身させる仙術というところにはたどり着けないだろうと予想していた。しかし,やはり鑑賞者を信じて,敢えて投げかけるべきだったと反省している。
L:水木しげるの「悪魔くん」という漫画に八仙,8人の仙人というのがいる。多分その内の3人だろうなと思ったんだけど,あとの5人はどこにいるのかな。
ナ:真ん中は文殊菩薩。知恵の仏様。組み合わせはなぜだかわからないのだが,武士が客間に三幅対で飾るのが室町時代にはやり,その頃に雪舟がかいた作品だということ。皆さんの話の中に,やはり三幅対で並んでいると,関連付けて見ていくことが分かった。動物がみんな出てくるよとか,左右はおじさんだけど真ん中はちょっと立場が違う女性がえがかれていて,それはなぜかということがでた。共通しているのは,3人の人物はどれも普通の人間ではなく,人間を超越した能力をもっているかまたは神々しい雰囲気を感じ取られたのかと思う。

3 全体を通して

 振り返りの会での,一対一対応になってしまっているという指摘が胸に響いた。一つ一つの発言を丁寧にパラフレーズしようと心がけているが,全体的な流れや参加者の意識・雰囲気を感じ取り,もっと焦点化したり思考に広がりが出るように働きかけたりできればよかった。
 特に,左右に描かれている仙人の動きについて,発言が出てきたときに,それぞれ動作化をしてみることは重要なことだった。手を伸ばしているように見えるがそれぞれ意味ありげな動きであることや得意げな表情とも結びついたのではないかと思う。
  右:鼻息荒い→山羊?羊(情報)→動作化  
  左:瓢箪→馬?犬?馬(情報)→動作化  
  中央:格の高さ→架空の獣を従えている  最後に三幅つなげての解釈へ促す
 また,少ない要素で表現している水墨画の特徴については発言がなかった,引き出せなかったことも残念に思う。例えば仙人の冠の発言があったときや文殊の服装や入れ墨のくだりで,「冠と言われましたが,どれかわかりますか。」とか「冠の表現,特徴的ですね。」とか「一本の線で表していて,ぼくはすごいなと思いました。」などと水を向けることもできたと思う。※ストーリーか表現方法か,という点については,作品の特性によるので,鑑賞者の発言に注意しながらナビをする必要があるとの指摘をいただいた。12月7日(土)みるみるの会で実践された渡邉貴之ナビの横山操作「塔」の実践と比べてみるとわかりやすい。この三幅については,どうしてもストーリー中心の解釈になってくるので,水墨画の特徴(表現方法)よりも人物の動きや訳の方に鑑賞者の関心が寄っていることは明らかだった。となると,表現方法に誘導することはしなくて良かったかもしれない。

以上のように反省点は多いが,雪舟の真筆でトークができるという得がたい機会をいただいた,山口県立美術館に感謝したいと思う。

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