今月13日。2つの個展のため新潟入りしたおり14日午前、15日終日とフリーの時間ができたので、展覧会会場の目前に広がる福島潟に、今後の版画制作の取材も兼ね野鳥を求めて訪れた。『水の公園 福島潟』は新潟市北区に含まれる広大な国営干拓地と湖沼である。現在までに220種類の野鳥や450種類以上の植物が確認されている自然の宝庫。中でも直径2mの葉を持つ巨大な水生植物「オニバス」の日本北限の自生地である他、国の天然記念物「オオヒシクイ」の越冬数は日本一を誇り、シーズン最盛期には5000羽以上が越冬している。
特に今の季節はなんといっても冬鳥のシーズン。雁類や白鳥類との出会いを期待したい。14日の早朝、寒波の到来で雪がちらつく中、連れ合いと2人、朝食前に宿を出た。放水路に架けられた「雁かけ橋」を渡ると夕べから降り続く雪で白銀の世界と化した福島潟が目前に姿を現した。「寒いっ!!」 家を出発してくる時、千葉も寒くなっていたが、なんと言うのか寒さの質が違う。ちょっと湿気をおびていて体の芯まで冷える寒さである。ポケットに手を突っ込んで固まっていると、僕よりベテランバーダーである連れ合いに「厳寒期の釧路湿原はこんなもんじゃないわよっ!!」と、しかられた。曇り空の下、南側のヨシ原の上を雁類のすごい群れが西の方向に飛んで行くのが見えた。双眼鏡で見るとほとんどがオオヒシクイのようだ。ざっと目算で、800羽以上。こんな数のオオヒシクイの飛翔を見るのは初めてである。よく追って見ていくと白鳥類の群れもかなりの数が飛んでいる。ほんとんどがコハクチョウのようだ。「ここをねぐらにしている群れが周囲の餌場にちょうど、出ていくところだね」と話しかけると「もたもたしていると観察小屋にたどり着く前に全部出て行っちゃうわよ!」と、連れ合い。
しばらく観察路を歩いていくとヨシ原の奥から一つ、また一つと雁のファミリーが次々に餌場を目指し頭上を飛翔して行く。「ガハァン、ガハハーン」と太く濁った低い声で鳴くのはオオヒシクイ、その中に「クワハン、クワハハン」と高めのかわいらしい声が聞こえた。はっと、気が付いて上を見上げるとオオヒシクイの家族の後を一回り小さいマガンが5羽ついて飛んで行った。ここでは少数派である。そして「コォー、コォー」と良く通る声で鳴くのはコハクチョウ。だいぶ賑やかになってきた。30分弱ぐらいだろうか、屋根付きの2階建て観察舎「雁晴舎(がんばれしゃ)」に到着。見晴らしいの良い二階にあがると3人の地元バーダーが来ていた。僕らもさっそく双眼鏡と施設にセットされている望遠鏡で水鳥の観察を始めた。
沼の水面にはまだオオヒシクイやコハクチョウの群れが残っている。数えきれないぐらい浮かんでいるカモ類の多くはマガモとコガモが優先種。丁寧に望遠鏡で水面を追って観ていくとオナガガモ、ヨシガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、ハシビロガモ、ミコアイサ、そして日本海側に多いトモエガモやコガモ郡中に1羽のみ発見したアメリカコガモの♂(15日)などが観察できた。それからカイツブリ類はカイツブリ、ハジロカイツブリ、ミミカイツブリ、カンムリカイツブリが観られた。寒さをこらえてじっと観察していると猛禽類が時々飛翔する。オオタカ幼鳥、ノスリ、チュウヒ、僕は観られなかったがハイイロチュウヒの♂も出たらしい。タカの仲間が飛ぶとカモ類が落ち着かず騒がしい。正面の泥地にチドリ科の冬鳥、タゲリが20羽ほど飛んできた。沼中央のカモ類がザザーッと一斉に飛び立った時、遠方を双眼鏡で追っていた地元バーダーの一人が叫んだ「オジロワシだっ!!」みんないっせいに指差す方向に双眼鏡を向けると黒い大きなシルエットがカモの群れの上方をゆったりと飛んでいる。北日本や日本海側に冬鳥として渡ってくる大型のワシで翼開長は2mを超える。「大きいなぁ、畳一畳が飛んでるみたいだ」 その姿はバックが雪化粧した越後の山並だったので、一際雄大に見えた。モノクロームの世界、一幅の墨絵のようでもある。 2日間で42種の野鳥を観察することができた。寒さは厳しかったが、ほっこりとした気分で千葉に帰ってきたのでした。 画像はトップが吹雪の中、水面を泳ぐオオヒシクイとコハクチョウ。下が『ビュー福島潟』から見下ろした一面雪化粧の福島潟、雪の中を飛翔するオオヒシクイとコハクチョウ、観察路の風景。