長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

136.木口木版画のオーダー制作。

2014-03-12 19:52:06 | 版画

ホーム・ページを開設して8年ほど経った。ときどき思ってもみない仕事が転がり込むことがある。たとえば「八咫烏(ヤタガラス)をモチーフにした版画を女子サッカーの「なでしこジャパン」の番組で使用したい」とか、「ギリシャ神話の女神、アフロディーテを描いた絵画作品を店舗のイメージキャラクターとして使わせてもらえないか」など、開設する以前には想像もしなかった内容のオーダーである。

今回、お引き受けしたのは、広告代理店を通した東京都の観光PRの仕事。メールでの依頼内容は以下のとおり。「ホームページを見せていただきました。伊豆諸島の観光PRの印刷物に使用したいのですが、島の固有生物をモチーフとした木口木版画を1点制作していただけないでしょうか」というもの。はっきりとクレジットを出していただけるものは、ほとんどの場合お引き受けしているので、「前向きに考えます」というお返事をして、広告代理店A社のTさんに工房まで打ち合わせに来ていただいた。お話しを進める中で、僕の作品の中で木口木版画の作品に興味を持ったということ、それから作品の中にいろいろな生物が登場することなどで依頼したとのこと。過疎の島の観光資源を広く宣伝、紹介する印刷物に使用したいと思ったようだ。

Tさんのイメージでは「小さな木口木版画の版面に可能な限り、島の固有生物を彫り込んで一つの○○コスモスと呼べるような小宇宙画面を構成してほしい」という内容だった。…なかなか難しい内容である。「まず、ラフスケッチを一度送ってください。それを役場の担当者に見せて承認を得てからの版画制作となります」制作の資料として固有生物のたくさん掲載されたパンフレットや図鑑類を貸していただいた。

しばらくの間、資料とにらめっこをしつつイメージを膨らませるアイディアスケッチを描き、その中から形になりそうなものを実際に彫る版木の輪郭線をスケッチブックに落とし、その中に下絵を鉛筆で描き直してから画像添付メールでTさんに送った。一週間ほど経ってから、この下絵にTさんが修正ポイントを赤ペンで書き込んだコピーが送信されて来た。これをまた修正し描き直したものを役場担当者に提出。約2週間後に承認が出てから版画制作となった。今回、版木として選んだのはタイ産のツゲの木。掌ほどの小さな版木だが年輪がつまっていて硬く重たい。あとはビュランという鏨に似た鋭い彫刻刀で、彫っては試し摺り、彫っては試し摺りの繰り返しとなる。今回難しいのは木口という小さな画面に対して海鳥やイルカ、ランの花や爬虫類など、モチーフがかなり多いことである。このたくさんのモチーフをいかにバラバラにならず一つの画面に構成していくか。結局、6回ほど試し摺りをとり、完成となった。約束の納期ギリギリだったが、Tさんに送ることができた。はたしてイメージしたような「小宇宙」となっただろうか。

翌日、電話で返事が来た。実際に摺られた版画を手に取って感動したとのこと。想像以上の内容に満足していただけたようだ。発注者に喜んでいただけるのが何より。印刷できれいに出てくれると良いのだが。画像はトップが完成した版木(絵柄が解り易いように彫った線にベビーパウダーを詰めている)。下が赤ペンで修正の入った第一回目のラフスケッチ、島の観光パンフレットから複写したページ2点。紙に摺った木口木版画は個展会場に観に来てください。