長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

177. 『博物画の鬼才 小林重三の世界』展

2015-02-12 20:33:02 | ワイルドライフアート

先月、11日。東京は町田市立博物館で開催中の『博物画の鬼才 小林重三の世界』展を観に行った。名前は重三と書いて「しげかず」と読む。初めてこの名前を見てこう読める人はなかなかいない。

小林重三(1887-1975年)と言えば昭和の戦前・戦後にかけて、図鑑や研究書、教科書から一般書籍、児童書まで多くの印刷物の原画として哺乳類や鳥類の絵を描いた画家として野鳥関係者、自然関係者にその名を知られている。日本におけるこの分野の絵のパイオニアの一人である。特に鳥類画は我が国の鳥類学の発展時期に重なり多くの絵が制作されている。

この日、展覧会関係者からのお誘いをいただき、会場に着くと博物館学芸員のI氏、小林作品のコレクターであるS氏、小林重三の生涯を研究されいる児童文学者のK氏、重三のお孫さん、町田市長、そして展覧会の後援をしている日本野鳥の会の職員のみなさんが集まり、内覧会のような雰囲気になっていた。会場でまず目に入ったのは整然と展示された夥しい数の鳥類画の原画だった。それはそれまでの日本にはない作風でイギリスの博物画家、アーチボルド・ソーバーンの画風に影響を受け、また参考にして描かれたという。ここに展示されているものは、そのほんの一部らしいが、たいへんな仕事量である。出版を前提として描かれたこれらの挿画は今日風に言えば自然史イラストレーションと言うのかもしれないが、たいへんな仕事量である。これだけの仕事ができたのは依頼者としての、この時代の多くの鳥類学者との出会いがあった。

博物画というものは科学的な正確さを求めたり細密になるがあまり、ややもすれば冷たく硬い表情になりがちなのだが、この画家の博物画には「絵画性」がある。それもそのはずだ。もともと水彩風景画家を目指して上京した人だったのだ。そして博物画は生活のために描き続けたわけだが、晩年、銀座の画廊で絵画の個展を開いている。その絵は当時の現代美術ともいえる表現主義的な風景画や人物画であったという。野鳥や哺乳類は登場しない。確かに同じ画家の立場で言わせてもらうと博物画家の自分というものに満足しきっていたとしたら、この画風の絵を晩年に多く描き、わざわざ画廊で発表する必要はなかったのではないだろうか。自分の内面の表現に忠実になればなるほど絵というものは理解されにくく、売れにくくもなる…。小林重三の画業を語る時、どうしても博物画に焦点が集中しがちであるが、僕は現在、個人的に初期の風景水彩画と晩年の表現主義的油彩画に強く興味を持っている。そしてこれらの時期の作品にこそ画家の内面の真実が隠されているような気がするのだ。この部分が研究されて初めて画家の全貌が浮かび上がってくるのではないだろうか。今後の新たな研究に期待をしつつ会場を出た。展覧会は3/1まで開催中。博物画に興味のある方は、ぜひこの機会に観に行ってください。

画像はトップが展覧会図録の表紙(部分)。下が向って左から小林が参考にしていたソーバーンの博物画と晩年の個展に出品された漁村を題材にした油彩画。

 

   

 



最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ありがとうございました。 (uccello)
2015-02-20 21:54:25
ブロガーのみなさん、いつもお立ち寄りいただきありがとうございます。いいね!をいただいた方々、感謝します。
返信する

コメントを投稿