今月某日。個展の在廊の合間をぬって都内のサントリー美術館で開催されていた『高野山の名宝』展を観に行ってきた。
和歌山県の高野山は「一度参詣高野山無始罪障道中滅(高野山に一度上れば、生前からの罪が消滅する)」と昔から語り継がれてきた標高900m前後の山上盆地に広がる宗教都市でる。そして恐山(青森県)、比叡山(京都府、滋賀県)と並ぶ日本三大霊場の一つである。平安時代、弘仁七年(816年)、弘法大師空海によって真言密教の奥義を究める修業道場として開かれ、2015年に開創1200年を迎えようとしている。その節目の記念もあってなのだろう、この3年ぐらい博物館や美術館企画による名宝展が幾度か開催されている。
今回、サントリー美術館で開催された展示は高野山の長い歴史の中で大切に守り伝えられてきた多くの至宝の中から空海ゆかりの宝物、密教の教理に基づく仏像、仏画など国宝、重文などを含む60件を選りすぐり展示されていた。地下鉄六本木駅より地下通路沿いに歩いて会場に着くと、すでに入り口には来場者の列ができていた。保存のために明るさをかなり絞ったライティングの会場に入ると、最初の部屋からお宝の数々で眼が離せない。この美術館は大きさはないがとても落ち着いた雰囲気で展示物が鑑賞し易い。仏具や書、絵画と順を追って観ていくがハイライトは何と言っても鎌倉時代、仏教彫刻界に新風を吹き込んだ仏師・運慶による国宝『八大童子像』である。そして八体そろって鑑賞できることはなかなかないとのことである。
以前、別の仏教美術展のレポでも書いたが、僕は鎌倉彫刻にとても心を魅かれている。その写実性と表情の豊かさは他に類例をみない。この大日如来の使者とされている八大童子像もすばらしい写実表現の像である。八体そろった部屋で眺めていると今にも動き出しそうな錯覚をおぼえてしまう。天才仏師、運慶の技量にささえられたこの時代の精神性の高さに感動せざるを得ない。上野の博物館に比べて会場は小さいが仏像との静かで充実した時間を共有することができた。画像はトップが美術館の入り口。下が地下のアプローチ途中に設置された大理石の抽象彫刻、八大童子から「恵光童子像」の顔、「こんがら童子像」の顔のアップ(展覧会図録より)。