今年も残すところ、あとわずかとなった。例年12月に入るとベートーヴェンの『第九交響曲』のCDを毎日のように聴くことが習慣になっている。こうすることで変化の少ない日常に師走のムードを盛り上げているのだ。ついでに「ベートーヴェン月間」と自分で勝手に銘打って、師走の慌ただしい最中に交響曲に限らず協奏曲、室内楽曲などを聴きまくっている。
第九に限って言えば、LP時代よりカラヤン、ベーム、イッセルシュテット、小澤など名指揮者と一流のオケによる数々の名盤を聴き続けてきたのだが、ここ数年のお気に入りはN響の名誉指揮者として我が国でもお馴染みのヘルベルト・ブロムシュテットの指揮でオケはシュッターツカペレ・ドレスデンによる1970年代録音の盤と巨匠レナード・バーンスタイン指揮で6か国合同オーケストラにより「ベルリンの壁 崩壊」の開放記念コンサートとして1989年に演奏録音された盤の2枚である。
前者は1970年代の冷戦時代の吹き込みで東ドイツ側が当時クラッシク王国であった西ドイツに張り合って録音された「ベートーヴェン交響曲全集」のうちの一枚である。その正攻法・伝統的スタイルの演奏は国際的にも高く評価された。後者は説明したとおりである。世界中が歓喜に震えたあの瞬間、1989年11月9日から10日にわたるベルリンの壁崩壊。その年の12月25日、東ベルリン、シャウシュピール・ハウスにおいてライヴ・レコーディングされたものである。オケはヨーロッパ6か国から選ばれた生え抜き演奏家、声楽家による合同オケであり、このような場面ではバーンスタインのような大コンダクターでないと収めることはできない。全楽章から東西ドイツ開放のパワーが地響きのようなサウンドとして聞こえてくる感動のライヴ録音だ。そして「フォト・ドキュメント 1989年11月9日 ベルリンの壁崩壊」というモノクロ写真集の中に挿入されていた。あれからもう25年も経っているんだねぇ…。
この2枚を気に入って選んだのは偶然である。一枚は冷戦時代の東西の競争意識で録音され、一枚は東西の世界の解放の喜びを曲に込めて録音されたもの。同一作曲家の同一曲なのだが聴き比べていると伝わってくる内容が微妙に違っていて不思議である。2015年を迎えるその瞬間まで聞き続けていくことにしよう。
画像はトップがベートーヴェンの肖像画。下が左からブロムシュテット盤ライナー、バーンスタイン盤ライナー、ベルリンの壁崩壊のモノクロ写真集から2枚を転載。