長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

337. 大判木版画 『 早暁 』 を彫る日々。

2018-07-28 17:47:37 | 版画
先月から今月にかけて野鳥をテーマとしたモノクロの大判木版画を制作した。

内容的には今年の2/9~2/11にかけて鹿児島県の出水平野に取材したナベツルの群れが早朝に飛翔する姿を構成し、描いたものである。真冬に取材した野鳥たちをこの暑さの中にようやく形にしているというわけである。

今回は下絵の段階でかなり迷い、悩んだ。朝焼けの中のナベヅルの群れというのは画像でもよく見かけるし、ステレオ・タイプな印象になっていないかどうか、時間をかけて画面構成を決定していったのだ。
版画作品でも、絵画作品でも、個展会場などで来場者によく受ける質問で「この1枚の作品制作にはどれくらいの時間がかかるのですか?」というものがある。1回の個展に数回は必ず尋ねられる。何故そのように、かかった時間が気になるのかは解らないのだが最近では以下のように答えるようにしている。「物理的に作品のサイズが大きいからといって時間が多くかかるわけでもなく、小さいからといってすぐに完成するわけでもない…それは作品の絵柄・モチーフや構成によって異なるのですよ」。画面構成が決定し下絵が完成、版木にトレースして彫り始めてから本摺りまでは案外早かった。本当に描き始め、彫り始めてみなければ版画家本人にも解らないものである。

制作はずっと、取材の時のことを想い出しながら進行させていったのだが、時間が経つにつれて現場の空気や状景を想い出してきた。早朝のかなり寒い時間帯、周囲が暗いうちからツルの行動を観察していたこと、風がビュービューと音を立てながら、かなり強く吹いていて大人でも立っているのが容易ではなかったこと、その厳しい自然環境の中でツル達は予想以上に逞しく、エネルギッシュに活動していたことなどを昨日のように思い出しながら描いたり彫ったりしていた。

結局、仕上がってみると風景の中のツル達の飛翔姿をリアルに彫ったというよりも、あの時、あの場所での大気や光、風をとらえたような表現となっていた。大判版画と言っても画面の中でのツル達は群れとして描いているので、そんなに大きくもなく細部を細かくは表現しきれない。このことが反って早朝の寒風の中に溶け込むような姿となっていった。

タイトルは、これも迷ったが、以上のような内容から『早暁・そうぎょう』とした。果たして二月の九州・出水平野のキーンとした緊張感のある光りと空気感が表現できただろうか。

画像では全体像を見せられまないが、今後、僕の個展やグループ展でお見せする機会が増えると思いますので、どうかその時にご高覧ください。

画像はトップが彫っている最中の版木と彫刻刀を握る僕の左手。下が向かって左から摺り上がった木版画の部分図2カット、木版画に使用する彫刻刀、バレン、ゴムローラーの3カット、今回彫った削りかす(細かい)。



                  






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