宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

太陽に近い金星で見つかった氷の大気層

2012年10月08日 | 宇宙 space
欧州宇宙機関(ESA)の金星探査機“ビーナス・エクスプレス”が、金星の大気の中に二酸化炭素が凍ってしまうほど低温の大気層を発見しました。








金星の昼夜の境界域





金星の特長は分厚い二酸化炭素の大気と、とても高い表面温度(地表付近は500℃)です。
大きさは地球と似ているのですが、環境がかなり違うので「似て非なる双子」とも言われているんですねー

今回の研究では、金星を周回中の“ビーナス・エクスプレス”が集めた5年分の観測データを新たに解析しています。
この結果、高度125キロのところに、気温マイナス175℃という極低温の層があることが分かりました。

もちろん地球の大気には、これより低温の場所はありません。
金星が地球より太陽に近いことを考えると、とても不思議な現象なんですねー

極低温の層は、金星の大気を通過してくる太陽光を分析し、高度ごとの大気中の二酸化炭素分布を調べることで見つかっています。
二酸化炭素の分布データと、高度ごとの大気圧データを組み合わせて計算することで、大気の温度を推定できるんですねー

高度ごとの温度分布を見ると、ある高度では二酸化炭素が凍ってしまう温度まで下がっていることが分かります。
そこでは二酸化炭素の氷が発生しているようです。



昼夜の境界域での
大気の高度ごとの温度分布
高度130キロ付近で
温度が急激に下がっている



凍った二酸化炭素の粒は、光の反射率が高くなります。
なので、探査機で見つかる大気中の非常に明るい領域は、このような氷が原因かもしれません。
まぁー 大気の乱流による可能性もあるので、断定はできないのですが…

この研究では、この低温層が2つの高温層に挟まれていることも分かっているんですねー

高度120キロの大気は、昼側と夜側で極端に温度差があります。
その中間点にあたる昼夜の境界域では、低温の大気と高温の大気のせめぎ合いが起こっています。
高度ごとに、夜側の大気が優勢なところが低温層で、昼側の大気が優勢なところが高温層 っという感じです。

今回の研究結果は理論モデルと一致するのですが、
大気上層部で二酸化炭素よりも多く存在する、一酸化炭素や窒素などについても検証すれば、さらに確実なものになりそうです。

地球の昼夜の境界域では見られない不思議な現象が意味するものは?
温度分布や温度環境が違うと、想像を超える発見があるんですねー

太陽系は天の川銀河を約2億年で1周している

2012年10月07日 | 太陽系・小惑星
天の川銀河は、大まかな分類でいえば渦巻銀河だということが分かっています。
でも、その正確な大きさや形状、回転速度などは、まだはっきりと分かっていないんですねー
これは、天の川銀河を外から見た姿は誰にも分からないからです。
今回の研究で用いられたのは、複数のアンテナを組み合わせる電波干渉計という仕組み。
天の川銀河にある星を測定し、天の川銀河の中心から太陽系までの距離や銀河の回転速度が、これまでに無い精度で得られたそうです。

複数のアンテナを組み合わせて巨大な望遠鏡を作る

天体の距離を仮定なしに測定するには、地球が太陽の周りを周回することによって発生する三角視差がよく使われます。
三角視差は、遠い天体では小さく近い天体は大きいので視差を測れば距離が分かる。
三角視差は、遠い天体では小さく、近い天体では大きくなるので視差を測れば距離が分かる。
三角視差とは測量などに用いられる三角法のようなもので、太陽を中心として地球が公転すると、目標とする天体の見かけ上の位置がズレることを利用した測定法です。

でも、この三角視差は遠くの天体では、とても小さくなるんですねー
なので、これまで三角視差が計測できた領域は、太陽系から1000光年以内に留まっていました。
これは直径約10万光年の天の川銀河の中では、ごくわずかな領域といえます。

そこで、国立天文台の研究チームでは他の方法を用いることにします。
それは、4か所に設置された電波望遠鏡の受信データを組み合わせることで、見かけ上1つの巨大な望遠鏡を作るというものでした。
VERAの望遠鏡の配置図。
VERAの望遠鏡の配置図。
複数のアンテナを組み合わせて、巨大な望遠鏡を合成する仕組みを電波干渉計といいます。
すでに、水沢局(岩手県)、入来局(鹿児島県)、小笠原局(東京都小笠原)、石垣島局(沖縄県)の直径20メートルの電波望遠鏡からなる電波干渉計“VERA”を用いて、天体までの距離を精密に計測し、天の川銀河の3次元立体構造の研究が進められています。
このように遠い場所にある複数の電波望遠鏡が協力して観測を行うことを“VLBI(Very Long Baseline Interferometry : 超長基線干渉計)”という。
今回、国立天文台の研究チームも、電波干渉計のデータを用いて距離を測定。
“VERA”で観測した星形成領域の19天体の観測結果と、アメリカの電波干渉計“VLBA”やヨーロッパの電波干渉計“EVN”の観測データを用いて調べられたのは、合計52天体の距離と運動でした。
外から見た天の川銀河。赤印は計測された52の天体。
外から見た天の川銀河。赤印は計測された52の天体。
これらの天体の距離と運動から、天の川銀河の基本尺度になる銀河中心距離(太陽系から天の川銀河の中心までの距離)と、太陽系の場所での銀河回転速度を高い精度で得ることに成功しています。
天の川銀河の基本尺度。距離と速度から太陽系は、天の川銀河を約2億年で1周することが分かった。
天の川銀河の基本尺度。距離と速度から太陽系は、天の川銀河を約2億年で1周することが分かった。

銀河の回転を測ると質量が分かってくる

今回得られた銀河中心距離は約26100±1600光年。
これは推奨値の約27700光年と誤差の範囲内でほぼ一致していました。
ただ、今回の測定はより高精度な直接測定の結果。そこが重要な点になります。

また、太陽系の位置における銀河回転速度は、秒速240±14キロです。
こちらは、1985年以来の国際天文学連合の推奨値である秒速220キロよりも大きな値になっています。

さらに、これらの基本尺度に加えて、天の川銀河の回転速度が銀河中心距離1万~5万光年の間でほぼ一定であることも分かりました。

一般に銀河の回転速度は、銀河の重力との釣り合いで決ります。
なので、銀河の回転を測ることは、銀河の質量を測ることにもなるんですねー

今回得られた最新の銀河回転速度を用いて、太陽系よりも内側の天の川銀河質量を求めてみると、これまでの値を用いた場合に比べて約20%も大きいことが分かります。
これは、この領域にある暗黒物質の量が、これまで推定されていたものより多くなることを意味しています。

いまのところ暗黒物質はミクロな素粒子だとする説が主流です。
実際、地球に降り注ぐ暗黒物質粒子を直接とらえようとする実験が、素粒子実験物理学で進められています。

今回の研究結果は、地球に降り注ぐ暗黒物質粒子の数や速さにも関わってくるものなので、素粒子物理学実験にもインパクトを与えるものになります。

2013年には、銀河系の非常に高精度の3次元地図をつくることを目的とした位置天文衛星“ガイア”が打ち上げ予定です。
これに日本とアメリカ、ヨーロッパの電波干渉計を用いた観測結果を合わせると…
今後10年、天の川銀河の解明が飛躍的に進むはずですよ。


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地球の生命体は、どこ生まれ?

2012年10月05日 | 宇宙 space
微生物が流星体の中に閉じ込められた状態で、生きたまま宇宙空間を旅することができるとしたら…

ひょっとすると地球上の生物は、他の恒星系からやってきたものかもしれないし、その逆のバターンもあり得るのかもしれません。

これらの可能性が今まで考えられていたより高いとする研究が発表されました。

今回の研究では、比較的速度の遅い岩に関するコンピュータ・シミュレーションが行われています。
そして、太陽系が誕生して間もない時期に、地球と他の惑星系との間を1兆回にわたり岩が行き来していた可能性があることが分かったんですねー

今から数十億年前、太陽は同じ時期に生まれた他の星と星団をなしていて、地球や近隣の惑星系には多くの隕石が衝突していたそうです。
流星体が我々の太陽系を離れ、他の恒星系に属する地球型惑星に舞い降りる可能性については、これまでも検討されてきました。

でも、こうした動きに関わる天体の速度からいって、その可能性は非常に低いというのが今までの結論だったんですねー

岩は非常に高速で放たれるので、速度が速すぎて別の星にとらえられることないと考えられていました。

これに対して今回の研究では、新たなシナリオ(低エネルギー移動))が検討されています。
他の条件に加え、これまで考えられていたよりも「かなり遅い」秒速100メートル程度の移動を考慮に入れたんですねー

これにより“リソバンスペルミア説”が成り立つ可能性が大きく高まることが判明しました。
“リソバンスペルミア説”とは、
生物物質が衝突などの現象によって、宇宙に放たれた惑星由来の岩を通じて広まったという仮説です。

生まれて間もないころの太陽系は、同時期に生まれた恒星からなる星団に属していたと考えられています。
その当時は恒星同士が近い距離にあって、その相対速度は非常に低速でした。

今回の研究によれば、この星団がゆっくりと散らばっていく前に、“リソバンスペルミア”が実際に起きる可能性がある時期があったということになるんですねー

地球上で見つかる隕石には火星由来のものも多く、月に由来するものもあるので、岩のやりとりは、すでに太陽系内でも起きていることなんですねー
なので、ある星団の中の異なる惑星系の間で、大型の岩が行き交っている可能性もあるということになります。

低エネルギー移動のシナリオでは、
太陽系や、太陽と同じ時期に生まれた近隣の恒星系から放たれた岩1万個のうち、多い場合では12個が他の恒星系にとらえられた可能性があることが分かりました。
このシナリオでは、一定の条件下で生命体が含まれた岩が他の恒星系に送り込まれる可能性も大幅に上昇することになります。

ただ、細菌の胞子などの微生物は、紫外線や宇宙線などの危険に満ちた宇宙の旅を生き抜かないといけないんですねー
まぁー 岩が大きければ大きいほど、生命体が長い間その中に隠れ、恒星間の旅を生き延びる可能性も大きくなるのですが…

現在地球上に存在する生命は、地球で生まれたというのが定説になっていますよねー
でも、生命が低エネルギー移動のシナリオで、他の惑星からやってきたものだとしたら…

ひょっとしたら地球上の生命が、他の惑星へ行き着いているのかもしれませんね。

火星で見つかった丸い石

2012年10月04日 | 火星の探査
NASAの火星探査車“キュリオシティ”が、川の流れによって運ばれてきたと思われる丸い小石を発見しました。

“キュリオシティ”が発見したのは、むき出しになった礫岩の周囲の小石です。







火星で見つかった丸い小石(左)と、
地球で見られるよく似た石



その大きさは、砂粒程度からゴルフボールまで様々なんですねー

角張ったものもあるのですが、多くは丸い形をしています。
このことから小石がどこかから運ばれてきたことや、そのサイズから風ではなく水の流れによって運ばれたことが想像できるんですねー
周辺地域の地形と合わせて、かつて水が存在した火星の過去を探る手がかりとなりそうです。

画像を解析して、この流れがどんなものであったかを推定したところ、
深さは人間の足首からお尻あたり、速さは秒速0.9メートルぐらいだと分かりました。

この流れは数千年から数百万年も続いたとか… まぁー 期間を特定するには、さらなる調査が必要になるようです。

火星地表の流れの痕と思われる、溝状の地形についてはこれまでも研究されてきました。
でも、実際に水によって運ばれた石が直接見つかったのはこれが初めてなんですねー

発見場所は、直径が154キロの“ゲール・クレーター”。
北端の崖縁から、クレーター内部に向かって広がる扇状地の先にある領域です。






小石の発見場所と、その周辺地形
探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”が撮影




地球で見られるこうした扇状地は、ほとんどの場合で水の流れで作られているんですねー
なので、今回“キュリオシティ”が見つけた小石は、この領域に水が流れていたことを示す強い証拠になります。

その形から、小石はクレーター縁上の高地から長い距離を運ばれてきたようです。
また、扇状地の先端付近に見られる溝状地形からは、その流れが一時的なものではなく、長期にわたって存在していたものであることが分かるんですねー

“キュリオシティ”は石の元素組成を分析し、この地形が作られた環境について調べる予定です。
小石が元あった場所であるクレーターの縁周辺のサンプルとなるので、多くを調べればさらに広域レベルでの地形調査になるかもしれません。

“キュリオシティ”は2年間のミッションで、“ゲール・クレーター”中央にある“マウント・シャープ”を目指します。
その途中で、クレーター内にかつて微生物に適した環境が存在したかどうかを探っていきます。

生命が存在したかどうか? まだまだ、これから進む探査しだいですねー

電波望遠鏡群で超巨大ブラックホールに迫る

2012年10月03日 | 宇宙 space
天の川銀河を含め、宇宙に無数に存在する銀河の多くには、中心に超巨大質量ブラックホールが存在します。

その中でも活発なブラックホールは、最大で高速の99%まで加速されたプラズマ粒子の非常に細いジェットを噴出してるんですねー
でも、ジェットがブラックホールの近くからプラズマ粒子が、どのようにして放出・加速されるかは詳しく解明されていません。








超巨大質量ブラックホールから出る
ジェットの創造図





今回の研究は、ブラックホール半径の数倍程度という非常に近い領域を観測し、ブラックホールから噴出するジェットの根元の大きさを初めて測定することに成功しています。
これによりジェットの形成・放出に、ブラックホールの回転が関わっている可能性があることが分かったんですねー

“おとめ座”の方向約6300光年かなたにある“M87銀河”は、高速ジェットを噴出するブラックホールを持つ銀河としては最も近くにあります。(中心にあるブラックホールの質量は、太陽の約62億倍もあります。)
なので、ジェットの放出・形成を調べるのに格好の対象なんですねー

研究では、アメリカの離れた3か所にある電波望遠鏡のデータを、VLBI(超長基線電波干渉計)という技術で合成しています。
これにより巨大望遠鏡に匹敵する解像度を得ることができるんですねー
これまで技術的に難しかった1.3ミリという短波長の電波で観測することで、よりブラックホールに近いジェットの根元まで見通すことが可能になりました。

観測の結果、ブラックホールのジェットの根元の大きさが、ブラックホール半径の5.5倍だという結果が得られています。

ブラックホール半径の7倍というのが、ブラックホールが回転していない場合に予測される根元の大きさです。
観測の結果がやや小さいので、回転するブラックホールであることが推測できるんですねー

また、観測から得られた値は、より長い波長で見たジェットの大きさや、電磁流体力学の理論に基づく予測とも合致しているようです。




“すばる望遠鏡”による“M87銀河”の
光学画像(上)
波長15センチの電波望遠鏡によるジェット
(右下)
波長7ミリの電波望遠鏡によるジェット
(左下)


今回の研究はジェットの形成・放出に、
ブラックホールの回転や磁場が関わっている可能性を示唆するものです。
今後、アルマ望遠鏡など高感度の電波望遠鏡を追加することで、観測網をさらに拡張するとか…

ブラックホールの直接撮像や、ジェットの放射・加速機構のさらなる解明が期待できますね。