【5月に公開された映画。見逃したので発売日にDVDを購入した。】
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知らず、知らず、がむしゃらに生きてきて、
企業人としての栄達を
半ば手にしかけている男「筒井肇」。
しかし、彼がそれと引き換えにした無理のせいで
家族の絆は失われかけていた。
さらにあろうことか古い友人の挫折の引き金を
自分が引かなければならない役回りを
引き受けてしまう。齢49。50歳を目前にして
ばたばたと身の回りに起こる事件、
それをきっかけに微妙なバランスを保っていた
企業人としての自負が崩れ始める。
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彼の潔い決断は母が暮らす故郷で
子どもの頃の夢実現という形で花開く。
ローカル電鉄会社の運転手に転身した肇。
もうひとつの人生を生き始めた。
彼が経験するヒューマニズム溢れる人生は
冷徹なロジックで動く企業の歯車としての
人生では経験できない体験、
これが見る者の心の琴線をも、つまはじく。
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主人公、筒井肇を演じた中井貴一がいい。
彼の表情を通して我々に届く肇の心理は
言葉以上の重みを持って語りかける。
子どもの頃の自分の夢、適う人はほんの一部だろう。
しかし、人生の軸足を半歩でも一歩でも
昔見た夢の側にずらして生きるのも悪くない。
かつて大学生活がモラトリアムだと言われたことがある。
しかし、今では社会人として生きているようで、
その実モラトリアム社会に生きているだけの
人間がいかに多いことだろう。
そんな現代の閉塞感を打ち破った姿が
我々の眼に眩しく、かつ爽快な印象を与える作品だ。
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某映画監督が雑誌のコラムで、この映画のことを
「こんなきれいごとの話、誰が信じるの?」と
書いていたが、まあ、失業率5%時代の今、
一理ある意見かも知れない。
だからと言って、映画なんだから、
別に幸せな夢を見たっていいんじゃないかと、
私は思うのであります。
私も子どもの頃、大の鉄道ファンで、
和歌山から新宮までの駅名を全て
覚えるという一面を持った鉄道少年だった。
だから、バタ電が走る姿とか、
車窓の、のどかな風景を見ていると、
何だか心がほっとして、和みますね。
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何度でも見たいDVDがまた一枚増えました。
錦織監督の描く丁寧な描写と
主演の中井貴一の確かな演技、
光と影のコントラスト、
時折差し込まれるイメージショットの適切さ、
緩やかな時間の流れのなかで
贅沢な2時間を満喫出来るんです。
そして何度見ても、同じ場面で
感動の涙が流れるんです。
「おじさん世代、バンザイ!!」であります。
【さらにこの映画。共演の三浦貴大さん、良い味出してますネ。】
※実は彼、三浦友和さんと百恵さんの息子さんなのだ。