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COX-2で腫瘍免疫が低下神経膠腫患者の樹状細胞で明らかに

2004年12月29日 | インポート
〔ニューヨーク〕シダース・サイナイ医療センターMaxine Dunitz神経外科研究所(ロサンゼルス)で総合脳腫瘍プログラムを率いるKeith L. Black所長らは,神経膠腫患者の樹状細胞(DC)の腫瘍免疫においてシクロオキシゲナーゼ(COX)-2が悪影響を与えることをin vitroの研究で明らかにし,Journal of Immunology(2004; 173: 4352-4359)に発表した。同所長らは「COX-2を過剰発現させた神経膠腫と接触させると,成熟DCでインターロイキン(IL)-10が過剰発現し,IL-12p70産生が減少する」と述べている。

免疫寛容を誘導

Black所長によると,これらの成熟DCはCD4陽性T細胞におけるIL-10とトランスフォーミング成長因子β(TGF-β)の過剰産生,IL-4産生の大幅な低下を生じ,種々のリンパ球に対し抑制的に働く 1 型制御性T細胞(Tr1)の反応を誘導する。さらに,高濃度のプロスタグランジン(PG)E2はDC機能を直接調節して,T細胞表現型を 1 型ヘルパーT細胞(Th1)からTr1に変化させる。このPGE2を合成するのがCOX-2である。膠芽腫患者から得た末梢血CD4陽性T細胞においても,COX-2過剰発現神経膠腫に対してはTr1反応が優勢であった。

今回の研究では,腫瘍細胞におけるCOX-2の過剰発現が,Tr1反応を誘導して免疫を回避するための重要な機序であることが示された。この機序によりTr1反応が優勢になると,DCが提示する抗原に対するリンパ球の免疫寛容が誘導され,免疫応答が低下する。

誘導されたTr1反応で免疫寛容
Black所長は「今回の知見は,神経膠腫におけるCOX-2発現とそれに続くPGE2産生が,抗腫瘍免疫反応を抗原提示の段階で低下させる重要な要因であることを示している。未成熟DCをCOX-2過剰発現神経膠腫と接触させるとIL-10 発現が有意に高く,IL-12発現が低い成熟DCに分化する。このため,腫瘍周辺部位と全身における細胞性免疫が低下する。これは,この過程で誘導された Tr1反応によりT細胞の免疫寛容が生じるためである」と説明している。

DCによる貪食を受ける前に神経膠腫のCOX-2発現を抑制すると,抗腫瘍性のTh1反応が保持される。COX-2を選択的に阻害したCOX-2過剰発現神経膠腫をDCが貪食すると,Tr1反応が抑制される代わりにTh1活性が亢進する。

同所長は「COX-2を抑制することでDCによるIL-12大量産生とTh1反応が誘導できる。今回の知見は,DCを利用するワクチンの臨床試験においてTh1反応を誘導する腫瘍抗原提示を促進する手段として,COX-2阻害薬を使用することを支持するものである」と述べている。

COX-2阻害薬で免疫亢進を
Black所長によると,COX-2阻害は魅力的な腫瘍治療戦略だと考えられているが,種々の腫瘍に関するこれまでの研究結果は一貫せず,時には矛盾している場合もある。COX-2は種々の条件や生化学物質の影響を受ける複雑な酵素であるため,その機序と作用の多くは解明されていない。

同プログラムのディレクターで同医療センターのJohn. S. Yu博士は「腫瘍はCOX-2を発現することで免疫系の攻撃を回避している。COX-2阻害薬を用いることで,これらの腫瘍は免疫系に認識され,その攻撃を受けやすくなる。われわれは脳腫瘍の臨床試験にcelecoxibなどのCOX-2阻害薬を加えて,今回の知見をさらに追究する予定である」と述べている。

神経膠腫ではIL-10受容体αは検出されず,遺伝子組み換えIL-10を投与してもCOX-2発現は抑制されなかった。今回の研究は,患者から採取して確立した 2 系統の神経膠腫細胞株と腫瘍細胞を用いて行った。

膠芽腫では調節性反応が優勢

Yu博士は「興味深い知見の 1 つは,膠芽腫患者の血中から分離したTh細胞では神経膠腫細胞に対する調節性反応が優勢であったことである。これは,膠芽腫患者のT細胞が調節型に傾いていることを示している」と述べている。

また,同博士は「これまでの研究と経験から,神経膠腫患者のCD4陽性T細胞では抗腫瘍反応が非常に低いことが示唆されていた。われわれは今回,この現象が神経膠腫と接触するDCにCOX-2が産生するPGE2が作用した結果,抗原提示の段階で抗腫瘍効果のあるTh1反応ではなく,調節性のTr1反応が誘導されたために生じたのではないかと考えている」と付け加えた。

ヒト神経膠腫においてCOX-2発現と臨床的アウトカムの低さの間に相関があることは,テキサス大学MDアンダーソン癌センター(テキサス州ヒューストン)のTadahisa Shono博士らがCancer Research(2001; 61: 4375)に発表した研究により既に示されている。

Black所長は「神経膠腫患者で認められる細胞性免疫の低下には,抗原提示過程の異常が関与している場合があると考えている」と述べている。