子供はどうしてわかってあげない?(上)
波風先生から漫画を借りた。田島列島さんの『子供はわかってあげない』(講談社)。読書交流会で「ほっこりする」と話題になったので、ほっこりしたくて借りる。確かに、評判通り。高2の少女サクタさんと少年もじくんの、ひと夏の成長物語。それぞれなかなかに複雑な事情を抱えた家庭環境だし、高校生活もそれなりに山あり谷ありなのだが、全く心が苦しくなる瞬間がない。イラストもほんわかしているし、お話全体の雰囲気が柔らかいのできっと誰もが読みやすい漫画だろう。主人公の少女が、実の父親を探して会いに行くことが話のメイン。それに様々な人間ドラマが絡む。最後まで読んで存分に「ほっこり」した後、さてでは、と私は思う。タイトルの『子供はわかってあげない』とはどういう意味だろうかと。そこで、視点を変えてもう一度読んでみる。主人公を、サクタさんではなく、サクタさんが父親探しを依頼した探偵の明ちゃんに置き換えて。すると、少し景色が変わった。
明ちゃんは、もじくんのお兄さんで町の探偵。商店街の古本屋に間借りしている。探偵業務はほぼ商店街の雑用。そんな明ちゃんは、見た目は女性。読んでいくと、おそらくトランスジェンダーだと推察される。けれどそこにスポットが当てられることはほぼない。淡々と話が進む中で、ではなぜ明ちゃんはトランスジェンダーとして登場してきたのか疑問に思う。話の内容を考えると、お兄さんのままでも、別に最初からお姉さんでもよかった。なぜ、「お兄ちゃんだけど見た目は女」として描かれたのだろうか。(来週火曜日の下に続く)
【波風氏談】マンガには「これはあなたの感情でしょう?」と迫まってくる作品がある。ひりひりするストレートでだったり、湿った情感で包み込むようなのがある。百冊の小説より一冊のそれが忘れられない印象を残すのだ。本作『子供はわかってあげない』はそのどちらでもないが妙に気になるところはあるなあ。