小学校の時だったと思う。昔、マキノトミタロウという大変に偉い人がいた、貧乏に負けず、学校へも行かず、世界的に有名な研究者になった、という話を先生から聞いた。無性に嬉しかったのは、「小学校も卒業していないのに」というくだり。
牧野 富太郎(1862年 - 1957年)「日本の植物学の父」。20代から東大の研究室に出入りし始め、そのうち助手になり、50歳から77歳まで講師。何度も出入り禁止の圧力あったが理学博士に。没後、文化勲章授与。地味な学問、学歴の無さ、13人の子沢山、極端な貧乏生活、そこに光。今が良いとは限らないな。
この本を手にしたきっかけも「なぜ花は匂うか」から始まり、「私は植物の愛人としてこの世に生まれてきたように」(植物と心中する男)と続く、全23話。巻末に5巻の選集を編集したとあった。全話が面白いのはそのせいもあるだろう。
「バナナは皮を食う」(1949年 暮らしの手帳社刊)は、出版元の目の付け所も想像して楽しいが、種や実を食べていると思っていたら、あれは『皮』だという。捨てる皮が外果皮、食べるのが内果皮でそこにポツポツと黒いのが役に立たない種らしい。果実の役目を果たさない「変態果実」と書いてある。
とても読みやすい。理と情が溶けあう名文、一話一話に新鮮な驚き。「雑草」という植物は無い、人間の衣食住はすべて植物の贈り物、学問研究(科学)と日々の暮らし(生活)とものの見方・考え方(哲学)の関係が整然としてとても気持ち良い。極上のアイスクリームを惜し惜しみ匙ですくって味わった読後感。
「雨の音。花が駄目になる」と夜遅く花壇に行ったママヨさん。濡れながら黄とピンクの薔薇を持って来て、真面目な顔で「雨でなくて雹(ひょう)だったわ。バラバラって降ってきたの。バラバラって」。※青空文庫の「牧野富太郎 自叙伝」→ こちらもとても面白い。この分野までカバーしている「青空文庫」に拍手