吉川弘文館から2020年に刊行された単行本で、『大学で学ぶ東北の歴史』を読み始めました。東北学院大学文学部歴史学科編で、「日本史を東北から見るとどのような姿になるのか」「旧石器時代から東日本大震災まで」「中高生〜大人まで 東北学院熱血講義」などの帯のコピーに興味をひかれたものです。本書の構成は次のとおり。
よりによって大雪の時期に歴史学の教科書か、とも思いますが、逆に言えば除雪に明け暮れる時期だからこそ、暖かい部屋でぬくぬくと読書三昧というのは望ましい姿です。それに、例えば縄文時代において「関東地方南西部の竪穴住居跡数の変動」というグラフの解説が興味深いものがあるように、読んでいる各時代において、いくつかの疑問が解消されています。
などの記述は、今までの縄文時代への理解をより具体的にするものです。火山の大規模噴火等により世界的な日照不足と寒冷化が生じ、それが縄文人の生活を脅かし、竪穴住居の数が激減する=人口を支えることができない時期が到来する、そんなイメージでしょうか。
引き続き後の章を読んでおります。受験勉強とは無関係な、大人になってからの日本史通史の講義、たいへん興味深いです。
プロローグ
Ⅰ 原始・古代
01.2つの人類のグレート・ジャーニーと日本列島 ─旧石器時代─
人類アフリカ起源説とアジアへの広がり/新人アフリカ起源説とアジアへの広がり/日本列島への人類の到達/ナイフ形石器文化と地域性/細石刃文化と地域性
02.1.3 万年間の盛衰を乗り越えた縄文人 ─縄文時代─
縄文時代初期の環境と文化の大変革/縄文人の食生活の大変革/縄文人の衣服と装身具/縄文人の住居と集落/縄文人の墓と祭祀/縄文時代の地域性/縄文人の交易/縄文人の対外交流/縄文時代の繁栄と限界/われわれに残る縄文人のDNA
03.東北弥生社会の成立と変遷 ─東北弥生社会の特徴とは何か
日本列島の弥生時代の始まり/金属器を用いた祭祀/土地を巡る争いの発生と戦争/邪馬台国論争/東北弥生社会の成立事情/西の弥生文化と東北の弥生文化/東北弥生社会を襲った大地震と大津波/東北弥生社会の特徴
コラム1日本の塩神―塩土老翁神―
04.ヤマト政権の成立と東北古墳時代 ─北縁の古墳時代社会─
初期ヤマト政権の成立/王権拡大と地方豪族/新来技術の受容と社会変化/古墳の変質と新たな王者の姿/東北古墳時代研究の始まり/古墳時代社会の成立と南北境界/東北の前期古墳/古墳時代社会の変動/律令時代への胎動
05.飛鳥の朝廷と東北
ヤマト政権の転換と「エミシ」観念の成立/「エミシ」成立期の東北社会/大化改新と東北/城柵の出現/7世紀後半の倭国と東北/東アジア世界と「蝦夷」
06.律令国家と東北
養老4年のエミシの反乱と多賀城の創建/出羽国の建国と出羽柵の北進/8世紀の城柵とエミシ・柵戸/天平産金/陸奥城柵の北進と軋轢/三十八年戦争のはじまりと伊治公呰麻呂の乱/桓武朝の「征夷」と胆沢エミシ
コラム2東北地方と北アジア世界
07.古代国家の転換と東北
「征夷」の終焉とエミシ社会/陸奥奥郡の騒乱とエミシ系豪族/元慶の乱と北奥社会の変化/地方支配制度の転換と奥羽/安倍・清原氏の出現とその背景/安倍・清原氏から奥州藤原氏へ
Ⅱ 中世
01.平泉藤原氏の繁栄 ─院政時代─
平泉藤原氏の登場/中尊寺の造営/都市平泉の発展/北方世界との結びつき/平泉藤原氏の主従制/平泉藤原氏と平氏政権
02.奥州合戦と鎌倉幕府の支配体制 ─鎌倉時代─
奥州合戦と平泉藤原氏の滅亡/鎌倉幕府による奥羽両国の掌握/鎌倉幕府御家人制の地域的展開/東夷成敗権と北条氏所領の拡大
コラム3日本人初のエルサレム巡礼者と東北のキリシタン
03.武士団の展開と建武政権・室町幕府 ─南北朝・室町時代─
鎌倉幕府の倒壊と建武政権の成立/北畠顕家の政権/室町幕府の多賀国府掌握と南北朝の動乱/室町幕府の支配体制と地域社会の形成
04.戦国争乱と東北社会
東北の戦国時代の始まり/南奥羽の戦国大名・国衆/北奥羽の戦国大名・国衆/戦国大名の領国支配/戦国時代の東北の地域社会
コラム4日本地震学会とイギリス人の地震観
05.中世東北の城
中世の城とは/南北朝・室町時代の東北の城/戦国時代の東北の城/群郭式城郭
Ⅲ 近世
01.東北近世史の幕開け
信長・秀吉と東北/奥羽仕置と奥羽再仕置/北の関ヶ原/元和偃武と東北諸藩
02.中近世移行期の東北の城
織豊系城郭の誕生/東北の織豊系城郭/近世城郭・城下町の整備/一国一城令以後の東北
03.藩政の展開
大名配置の確定/地方知行制の採用/藩政確立期までの動向/中期藩政改革の展開/産育と養老をめぐる施策
04.人・モノ・文化の交流
街道と水運/紅花の商業ネットワーク/遊学による都市文化の受容/庶民の金毘羅・伊勢参詣
コラム5イザベラ・バードの日本探検 129
05.災害と備え
大規模飢饉の発生/飢饉のさまざまな要因/天明の飢饉の経緯/「御救山」と貯穀制度/海岸災害と防災林の造成
06.奥羽地域と「蝦夷島(現北海道)」
「蝦夷島」に成立した日本最北の藩・松前藩の性格/松前藩と米/「松前藩」の後方支援を担わされた奥羽の有力諸藩/幕府の「蝦夷地」再直轄と奥羽4 藩の「松前・蝦夷地」警備/奥羽6 藩への「蝦夷地」の分領と新たな「蝦夷地」警備体制
07.松前交易における日本海海運の発展過程
初期海運の性格/荷所船の活躍/北前船の台頭と発展
08.戊辰戦争と東北
倒幕と戊辰内乱/奥羽鎮撫使の派遣/奥羽越列藩同盟の成立/同盟の亀裂/戦火にまみれる東北/戦後処理
コラム6足もとの中国―秋田の石敢当― 161
Ⅳ 近代・現代
01.明治政府の東北政策
近代東北の創設/東北開発と資源収奪/点と線の開発と水稲単作地帯化
02.東北振興会と東北振興調査会
東北振興会の設立と顛末/農山漁村経済更正運動と東北振興調査会の官設/東北興業株式会社と東北振興電力株式会社
03.地域・軍隊・学校
師団制度の確立/日清・日露戦争/満州事変/地域と軍隊/学校教練の開始/総力戦体制下の軍隊と学校/太平洋戦争と東北の兵士たち/学徒出陣の開始
04.東北地方と満洲移民
石原莞爾と板垣征四郎/移民を唱えた山形県出身者/東北地方から移民が送られた理由/満洲移民政策の実施と東北地方/災害と移民者ネットワーク/引揚者の受け入れ/満洲移民事業とは何だったのか
05.大津波災害・農村恐慌からの復興
大津波災害の常習地域/明治三陸地震による津波からの復興/昭和三陸地震による津波からの復興/産業における創造的復興/昭和恐慌からの復興
コラム7イギリスの帝国と日本の帝国
06.近代に生まれた民俗行事
チャグチャグ馬コとは?/現在の行事内容/蒼前参りは原形か?/蒼前参りの盛大化とその背景を考える/馬産の斜陽とチャグチャグ馬コの誕生/戦後の展開と地域の象徴、観光資源化へ/チャグチャグ馬コの歴史的展開から見えるもの
07.東北の観光開発と生活文化
新中間層の形成と娯楽/東北の観光開発と鉄道/土産物・名物の誕生と趣味の世界/東北イメージと出版文化/版画に描かれた東北
08.戦後復興から高度成長へ
電気事業再編成と特定地域総合開発/東北開発三法の制定とその顛末
09.原子力発電所と東日本大震災
東電福島原発の誘致に向けて/東電福島原発の建設
10.離島にみる地域振興と観光化
東電福島原発の建設高度経済成長と農山漁村の衰退/時代に翻弄される離島/離島の観光開発/東日本大震災と三陸の復興
11.東日本大震災の被災地における民俗行事の「復活」とは何だったのか?
震災前における被災地の暮らしの特質/震災による被害の状況と避難生活/仮設住宅の完成と暮らしの再構築に向けて/復興支援事業による混乱/春祈禱の「復活」
コラム8情報との向き合い方―より深い学習のために―
特論
東日本大震災と東電福島第一原発事故
よりによって大雪の時期に歴史学の教科書か、とも思いますが、逆に言えば除雪に明け暮れる時期だからこそ、暖かい部屋でぬくぬくと読書三昧というのは望ましい姿です。それに、例えば縄文時代において「関東地方南西部の竪穴住居跡数の変動」というグラフの解説が興味深いものがあるように、読んでいる各時代において、いくつかの疑問が解消されています。
- 「4200年前に発生した寒冷化によるクリ栽培などの植物質食料の不作・欠乏」(p.16)が原因と推定
- 「中期末〜後期の東北では、イノシシ形土器製品や底にクマを弓矢で狩猟する様子を描いた狩猟紋土器が突然現れた。これは食料における動物質材料への依存度が後期に高まったことを暗示している。」
などの記述は、今までの縄文時代への理解をより具体的にするものです。火山の大規模噴火等により世界的な日照不足と寒冷化が生じ、それが縄文人の生活を脅かし、竪穴住居の数が激減する=人口を支えることができない時期が到来する、そんなイメージでしょうか。
引き続き後の章を読んでおります。受験勉強とは無関係な、大人になってからの日本史通史の講義、たいへん興味深いです。