
作家の父母の淡々とした語り(記述)が戦前の神女殿内の生活と辻遊廓があった沖縄社会を映し出していて、伊波普猷が具体的に語りえなかったパズルをまた浮き彫りにしているようだ。辻に異母兄弟姉妹がいた伊波は当時の沖縄の中産階層の男子が辻のジュリを妾にしたり、大いにその界隈に出入りしていたことを『沖縄女性史』に記しているが、作家の大城はより細やかに辻のジュリを妾にしたり、その界隈に入り浸っていた父を淡々と描写している。母との葛藤もあったであろう戦前の神女殿内の父親の放蕩ぶりがそそっと迫ってくる。息子を慈しむ父の姿があり、拈華微笑がなるほどと、感じさせる。(続く)
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