「イタリア・ユダヤ人の風景」 (河島英昭著/岩波書店)を読みました
紹介文:
第2次大戦下のイタリア.ファシズムとナチズムが交錯する都市の片隅で,戦火とは異なる暴力が多くの命を奪おうとしていた.
どんな運命がイタリアのユダヤ人たちを待ちうけ,何が彼らの命運を分けたのか.苦難に生き,闘い,斃れた彼らの声を沈黙する街路から聞き取るために,ローマ,ヴェネツィア,トリエステ,フェッラーラを訪ねる.
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まるで映画を観ているかのようなシーンがいくつも出てきました
そして読みながら ユダヤ人の運命を描いた数々の映画のことを思い出しました
また ナターリア・ギンス(ツ)ブルクと 獄死した夫のレオーネ・ギンス(ツ)ブルクの無言の再会を描いた詩に触れ 2年ほど前にギンスブルクの小説の購読レッスンを取った時に 彼女の家族の歴史について知りましたが あらためて深く掘り下げて知ることができ 原書で読んできた本のことを思い出し 衝撃でした
ナターリアが 逮捕を免れる夫の潜むローマでようやく夫に再会し 幼な子とともに ほんの数か月を幸せに過ごすも その日々は長くは続かず...
次に再会した時は 獄死した夫の顔には白い布が被せてあった...
その時読んだ詩も こういう背景があったのかとあらためて知りました
また アルベルト・モラーヴィアとエルサ・モランテ夫妻がローマから脱出し 潜んでいた日々のことも
狭い町はずれの農家の小屋に10か月以上も潜み 時折エルサがローマに冬服を取りにいくと見せて 書きかけの 命の次に大切な小説の原稿を取りに戻ったことなど...
そして この本の著者(河島英昭氏)が自ら ローマでモラーヴィアの家を訪ねた時の描写で モラーヴィアがエルサと別れた後で ノーベル文学賞受賞者のダーチャ・マライーニと暮らしており偶然会ったことを知りました
今まで読んできた あるいは名前を知っているイタリア文学者たちが 互いにこうしてかかわりあっていたのだなと 大変興味深く読みました
無防備都市ローマで1944年3月に起きた フォッセ・アルデアティ―ネの虐殺についてなど...
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次なるヴェネツィアのゲットー
14世紀後半 ペストの流行が終わったあとで ヴェネツィアにユダヤ人たちが流入してきました
ローマでは 近代化の区画整理によって旧ゲットーの街区はほとんど壊されてしまったのですが ヴェネツィアでは旧ゲットーが ほとんど当時のままに残っているのですね
そして 旅はトリエステから フェッラーラ 再びローマへと続きます...
様々な偶然によってガス室行きをまぬがれたユダヤ人たちの貴重なエピソードも知り 中でもヴェネツィアの新ゲットーの「イスラエル安息の家」にあった碑文から
高名なる医師でありヴェネツィアのユダヤ人共同体の首長でもあったジュゼッペ・ヨーナ(Giuseppe Jona)が ナチスからユダヤ人居住者の名簿を提出するよう命じられた時に その夜のうちに償却処分し 自らは服毒自殺を遂げ 多くのユダヤ人たちの命を救ったことは この本で初めて知りました
(ちなみにコロナ禍で リトアニアのカウナスにある 杉原千畝記念館が存続の危機にあると知り 大変残念です)
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トリエステ
リジエーラ・サン・サッパの強制収容所に(Risiera di S. Sabba)ついて イタリアで唯一焼却炉のあった強制収容所の国立記念館を訪ねた時の描写
著者は旅先に何枚もの古地図を持参し 現在の地形と見比べて詳しく解説してくださっています イータロ・ズヴェーヴォの代表作「ゼーノの意識」もこのあたりが舞台だったとのこと
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フェッラーラのゲットー
フェッラーラのゲットーは中心街に位置しており フェッラーラのユダヤ人たちは富裕な階級に属しているとのこと
エステ家の宮廷が1597年に途絶えると その庇護にあったユダヤ人たちはゲットーに強制移住されられました それまではユダヤ人はエステ家と宮廷文化の繁栄を分かち合っていたそうです エステ家の庇護を求めて移り住んできていたのですね
生涯をかけてフェッラーラの都市と人々を描き続けてきた作家 ジョルジョ・バッサーニの生涯とそのかかわった事件については 息を呑むほどでした
20代の頃にファシズムのの暴虐に怯えて町を離れる人が増える中 詩作をなげうってでも故郷にとどまり続けた彼 この時の試練がなければ後年の彼の文学世界は開かれなかったと述懐していました
彼の短編小説をベースにして作られた短編映画「四三年のある夜」(1960/邦題「残酷な夜」)にも描かれていた フェッラーラの1943年11月15日の市民11名の虐殺事件 ユダヤ人の住処をファシストに密告したのは...?
ユダヤ人同士の密会は危険なため 墓地で会ったとのこと
最後はふたたびローマ この時代の日本でのファシズム報道の状況についても触れられており興味深く読ませていただきました
「イタリア・ユダヤ人の風景」は こちら
河島先生の他の著書も読みたくなり 「ローマ散策」もこのあと読みました💕