ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

謡初め

2007-01-08 23:06:58 | 能楽
今日は師家の定例公演「梅若研能会」の正月初会でした。今年初めての公式な演能会だったのですが、公式=フォーマルと考えるにしても、それにしてもフォーマルすぎた。。

『翁・法会之式』に引き続いて演じられた『楊貴妃』という超豪華? 演目の所要時間は。。なんと2時間50分でした。地謡に出ていた ぬえは。。いやはや。。年のはじめから いい夢見させて頂きました。。ヒザも笑ってめでたいお正月となりました~。。゛(ノ><)ノ ヒィ

なお『翁』と『楊貴妃』は引き続いて上演され、囃子方も地謡も侍烏帽子/素袍という姿だったのですが、『楊貴妃』は脇能ではないので『翁付』というワケでもない。いろいろと思ったことの多い演目だったのですが、それはまた次回に考察してみたいと思っています。

さて正月の恒例行事のレポート、今回は「謡初め」です。と言っても師家では毎年正月二日に行われるので、もう旧聞に属してしまいますけれど。。

世の中に「書き初め」「縫い初め」「笑い初め(初笑い)」「売り初め(初売り)」「仕初め(仕事始め)」「出初め式」があるように、能の世界にも「謡初め」があります。ぬえの師家では毎年元日に行っていたのですが、前述の丹波篠山での「翁神事」が始まり、それが恒例になってからは二日を謡初めの日と定めるようになりました。

それにしても「翁神事」の出演者は大晦日の早朝に東京を車で発ち、交代で運転をして午後遅くに現地に到着、準備を済ませてからひと休みをして、夕食後、午後10時に楽屋入り、深夜0時半より『翁』を上演、片づけのあと休憩をとってから深夜に現地を出発して、元日の朝に東京に帰って来るのです。丹波から東京への帰り道では、毎年ちょうど浜名湖に車が差しかかった頃に初日の出が見れるのですよねえ。もうこの強行スケジュールにも慣れてしまいました。

そんなわけで、師家での謡初めは、忙しく「翁神事」に出演した者の身体を気遣って、二日のちょっと遅め、午後2時から開始するのが恒例となっています。

年末に大掃除を済ませ、注連縄を張り巡らせたた師家のお舞台は、当然この謡初めの儀式が済むまで一切使用禁止となっています。そして定刻になると、まず師匠が『高砂』の仕舞を舞い、ついでその弟の師匠が『羽衣』の仕舞を勤めます。それが終わると門下の番で、先輩から順番に一番ずつ仕舞を舞っていくのです。師匠→弟子、先輩→後輩の順になるわけで、なんだか順序が逆のように感じられると思いますが、清められた舞台のうえで年の初めに芸をするわけですから、上位の方ほど先に舞台に立つことになるのです。能楽師がひと通り仕舞を終えると、最後に師範の方々が連吟を勤めて、これで無事に謡初めが終わります。所用時間はほんの1時間弱でしょうか。そのあとに一同盃を頂いて、今年一年の無事と公演の成功を祈念します。この上演の形態からすると、今はどちらかと言えば「謡初め」というより「舞初め」という方が似つかわしいとは思いますけれど。

ちなみに かつて、先代の師匠がおられた頃には、最初に師匠親子三人によって仕舞『弓矢立合』が演じられ、そのあと全員で『老松』を連吟しました。この頃の謡初めは15分もすれば終わってしまったな~

江戸期の将軍家でも謡初めは毎年正月二日に行われていたんですよね(のちに将軍家の忌日を重なったため三日に変更)。こちらは各流大夫による独吟・舞囃子のほか舞囃子『弓矢立合』が演じられていましたが、近年 東京・上野東照宮で観世・宝生・喜多の各流宗家の出演により復活されたのは記憶に新しいところ。何年間か続いたのですが、残念なことに今では再び廃絶してしまっておりますが。。