正月にもいろいろ催しがあって、ご報告が遅れ遅れになっております。どうぞご容赦ください~
さてこの正月9日の成人の日に研能会の初会がありました。番組は『翁』『楊貴妃』、狂言『鍋八撥』、能『恋重荷』でした。『翁』『楊貴妃』は休憩ナシに引き続いて上演されましたので、この2曲だけで上演時間は2時間50分、という驚異的に長大な上演となりました。演者も大変だったけれど、お客さんも根比べみたいなものではなかったでしょうか。。
この初会は研能会としては新年のめでたい催しなのですけれども、じつは今年は先代の師匠の「十七回忌」の年に当たっておりまして、研能会としましては、今年一年は「追善供養の年」と位置づけられております。この研能会新年の初会も、先代師匠の追善の催しでもあるのです。そんなわけで、普段の催しでは我々への出演料は祝儀袋に入った形で頂戴するのですが、この日の出演料は不祝儀袋に入れられて配られました。
この日の開演時刻は午前11時で、また『翁』がある時は楽屋の準備も大変なので、ぬえはこの日午前6時半に起床して、早めに楽屋入りをしました。正月の間は舞台にも鏡の間にも注連縄が張り巡らされていて、いつも清々しい気分になりますね。さて楽屋ではまず鏡の間に「翁飾り」を設えるのですが、八足台と呼ばれる神社にあるのと同じ台を三段に組み、そのうえに真菰を掛けて、さてその上に『翁』に使う道具類を並べます。最上段の中央に面箱を置きますが、この中にはすでに「翁」用の白式尉の面、「三番叟」の黒式尉の面、それに同じく「三番叟」が使う鈴(今回は鈴ではありませんでした!)が入れられています。このとき面箱の乳(面箱を封じる紐をつける環)の一方に紙のコヨリを結びつけておきます。これはすでに蓋を閉じてしまった面箱の外から見ても、中に入れられている面の上下がわかるように目印をつけておくので、面の鬚のある方、と楽屋では言い習わしていますが、つまりアゴの方に紙のコヨリを結びつけておくのです。
『翁』の開演の直前に後見が「面箱持ち(この役は「面箱」と呼ぶのが普通ですが、箱そのものと役名を混同しないように、ここでは便宜上こう呼んでおきます)」に面箱をお渡しするのですが、このとき「面箱持ち」が面箱を捧げ持ったときに、その中にある面の「鬚」の方を先にして登場するように、後見はよく注意して「面箱持ち」に渡し、このときに紙のコヨリは取り去ってしまいます。舞台上に持ち出された面箱は「面箱持ち」の手によって舞台笛座前に安座した「翁」役の前に据えられますが、このときシテの「翁」が面箱の中の翁面と正対するように、後見は楽屋に面箱がある時点から、その向きによくよく注意を払っているのです。
さて「翁飾り」に話を戻して、最上段の面箱の左右には錫口(しゃっこう)と呼ばれる、御神酒を入れた大きなとっくりのような酒器を置き、その口には奉書を巻いて飾ります。中段には火打ち石、「千歳」が着ける小さ刀(ちいさがたな)、同じく「千歳」の侍烏帽子、翁烏帽子、翁扇、「千歳」が使う神扇を並べて置き、下段には二つの三宝を置きます。三宝にはそれぞれ半紙を敷き、ひとつの三宝にはスルメ、もう一つには土器(かわらけ)を三つ置きます。土器は一つは演者が開演直前に御神酒を頂くときにそれを飲むために使い、あとの二つには洗米と粗塩が盛られています。どちらもやはり御神酒を頂くときに演者が身体を清めるために使うのです。
こうして「翁飾り」ができあがると、いよいよ「翁」と「千歳」の装束の着付けが始まります。こういう重い能の場合、装束の着付けは楽屋内でも秘する事があります。すなわち装束の間のふすまを閉め切ってしまって、後見と少数の楽屋働きの者以外は装束の間への出入りを禁止するのです。
(画像は「翁飾り」。画質が悪くて申し訳ありません。。)