兵庫県の丹波地方、篠山市で毎年、年が明けたばかりの深夜に上演される「翁神事」。ぬえの師匠家の出身地である丹波地方で師匠が『翁』を上演することは、師匠にとって祖先に対して新年の挨拶をする儀式でもあります。会場となる同地の春日神社の境内に建つ能舞台は最近重要文化財の指定を受けましたが、いや本当に趣のある舞台です。
デカンショ節で有名な篠山は少し以前までは言葉は悪いけれど陸の孤島のような場所でした。ぬえが師家に入門した頃はすでに「翁神事」は行われていたけれど、その頃は公共交通としてはJR福知山線の「篠山口駅」からバスを使うほかに到達する方法がありませんでした。ぬえたちは鉄路ではなく装束を積み込んだ車で東京から交代で運転しながら篠山に向かうのですが、当時は大阪の三田までしか高速道路は使えず、そこから一般道を利用していました。ところが年に一度の訪問なので、毎度必ず一度は道に迷って。。いつも東京からは10時間ほどかかって到着したものです。
また当時は宿泊施設も国民宿舎が一軒ある程度で、ぬえらは大晦日かその前日に現地に到着して当地の「能楽資料館」の二階に宿泊して、昼間は舞台の掃除をし、夜の「翁神事」にそなえました。今では高速道路も舞鶴道が開通して篠山のすぐ近くまで直行できるようになりましたし、宿泊施設もビジネスホテルなどが建つようになって、本当に便利になりました。
交通や宿泊も便利になったけれど、「翁神事」そのものも上演する条件がよくなってきました。。というのも、大晦日の深夜の上演時刻が以前のように厳しい寒さではなくなってきたのです。ぬえがここで初めて「千歳」を勤めた時には舞台に雪が降り込んできたものでしたが、最近はそういう事もなくなってきましたね~。地球温暖化の影響かもしれないので喜んでばかりもいられませんが、上演する身としてはやはり暖かい方が条件は良い。もっとも厳しい寒さの中で上演していたからこそ、年始の催しとして身が引き締まる思いもしながら舞台に立てたようにも思います。暖かい「翁神事」じゃ ちょっと拍子抜けにも感じますけれども。。
。。こう書いていながら、今年は ぬえはこの「翁神事」には出勤しませんでした。まあ、今は ぬえも後輩がいるし、地謡は輪番制のようになって、出勤しない年もあるのです。その上 昨年の師匠の奥様の不例から、今年は正月二日の「謡初め」も中止になって、なんだか何もしない年始となりました。
元日には近所で初詣。そして二日には、毎年 師家の「謡初め」の日程と重なるので出席できなかった 能楽協会東京支部の新年会にはじめて出席してきました。う~ん、大先輩の能楽師っがたくさん見えるので若手は敬遠してしまうのか、あまり出席者は多いとは言えなかったのは残念ではありましたが、普段あまりお話をしない方とも話せて、ぬえは楽しませて頂きました。また来年からは師家の「謡初め」があるので、協会の新年会には出席できないでしょうが、こういう機会はもっと増えてもよいかな、とも感じた楽しい日ではありました。そうそう、この日は、先日 ぬえが勤めた『山姥』の際に急に体調を崩されて入院してしまわれた囃子方の先生もお元気に参加され、ぬえはお隣の席で親しくお話をさせて頂きました。よかった、よかった。
【今日のお題】
知る人ぞ知る「東京大仏」。
おさいせんを ぶつけないでください~ (×_×;)