ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

殺生石/白頭 ~生還致しました~(続々)

2009-05-17 02:38:57 | 能楽
結局 写しの新面を使った ぬえでしたが、そのおかげか、ほぼ稽古通りに動くことができたのではないかと思います。少しく型に工夫を加えた点もあるのですが、それもまあ、思う通りには出来たようには、自分では思いますのですが。。果たしてそのように見所から見えたかなあ。

さて例の「朽木倒レ」ですが。この型をした瞬間に、倒れた衝撃で面が上にズルッと上がってしまいまして。。ん~、説明が難しいですが、これもじつは想定された範囲のトラブル? でした。

朽木倒レ。。この型をするように型附には明記してあって、ぬえの師家の型附では白頭の場合はこの型以外の選択肢はないのですが。。じつは ここまでリスクを伴う型がある場合、『殺生石』に限らず上演するシテによっては型を変える場合もないではないです。それにはいろいろな理由があって、たとえばおシテが年齢やご自分の体力と相談されて、もう少しリスクの小さい型に替えるとか、稽古が不十分でお客さまにお目汚しになると判断されれば師家から型の変更を指示される場合だってあるでしょう。

そこで ぬえは事前に師匠に相談しまして、本来型附に明記されている型ながら、朽木倒レの型を勤めたいとお願い致しました。師匠からはお許しが出ましたが、その際に「面が上がらないよう十分に注意しなさい」という助言も頂戴しました。これで朽木倒レを勤めることができる事になり、さて稽古を始めたのですが、まずは倒れる型そのものを稽古して、コツがつかめてきてから ようやく面を掛けて稽古することになります。

ところが倒れる衝撃というのは凄まじいもので、なんと稽古では面がまるまる顔から外れて、素顔が丸出しの状態にまでなりました。。驚いた。師匠がおっしゃったのはこれなのか。。

驚きましたが、まずは面に謝罪して。。それから、どうやってこの事故を本番の舞台で防ぐか、方策をいろいろ考えめぐらす作業も稽古と平行して進めることに。倒れ方がいけないのか、それとも面を顔に結びつける方法が甘いのか。

その結果、型や面を顔に掛ける方法に注意をめぐらす事もさることながら、やはり最終的に舞台で失態を起こさないために、「仕掛け」を作ることも必要だな、と考えました。万が一の事故をも防ごうと ぬえは考えあぐねて、とうとう白頭に独自の細工を施すことに。

この ぬえの「仕掛け」は どうも他の演者には前例がないらしく、この方法を考えついて 何人かのシテ方に相談してみたのですが、皆さん一様に「ほお。。そんなやり方を。。」というお答え。ん~~、どうなんでしょ? でも、おそらくこの仕掛けのために当日は思い切りよく倒れることができました。

ところがこれだけ「仕掛け」を考えても、それでも当日は数センチとはいえ面が上がりましたね~。。思い切りの良さには どうしてもリスクも呼び込むことになるのでしょう。。

そこで朽木倒レから起きあがるときに、幕に向いている間に手を使って面を直し。これは仕方がないことだとは思うのですが、それで直したと思った面が、意外や立ち上がってみると、やはり前方がまるで見えない。。仕方なくここでもう一回面を掛け直したのが、まあ大きな傷ではないけれども、心残りではあります。

しかし。。勤め終わってしみじみと思うのですが、やはり切能は面白い。いや、お見所からご覧になっても切能はスカッと面白いと思われる曲が多いとは思いますけれども、やっぱり ぬえは演じる側として切能が好きなんだなあ、と、思ったことでした。

ご来場頂きました方々には、改めまして御礼申し上げます~。どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます! m(__)m