ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

『嵐山』、大成功で終了~!

2009-06-19 11:10:20 | 能楽
昨日、東京での師家の月例公演・梅若研能会6月公演にて能『嵐山』が上演されました。この曲に子方として出演した増田綸子(りんず)ちゃんと チビぬえのコンビはみごと、大役を勤めおおせて、ぬえのひいき目かもしれないけれど、結果は大成功だったと言えると思います!

天女之舞の型はかなり精密にシンクロしていたと思うし、謡の声も明瞭で大きかった。なにより物怖じせずに大きく舞えたのがよかったです。楽屋でも「あんなに型が合うなんて、すげ~と思いました」と ぬえに言ってくれる人もいて、稽古をつけた ぬえもうれしかったです~

じつは申合には風邪気味でやってきた 綸子ちゃん。代役はいないので ぬえも心配しましたが、当日楽屋に来た様子を見ると。。ありゃ? 顔色もよく、あの元気な綸子ちゃんに戻っていました。「風邪。。大丈夫なの?」と聞いたところ「はい!治してきました!」

治して。。(¨;) オマエ、プロだな。。

うう~。。「公演当日は子方といえどプロとして扱う。代役はいないのだから、たとえ40度の熱が出ていても、骨折していても、必ず舞台には立ってもらう!」とあらかじめ綸子ちゃんに宣言していた ぬえでしたが、大言壮語した ぬえはまだ足指の骨折を治せていません~~ (T.T)ゴメン

伊豆に住んでいる綸子ちゃんには、本番の前に何度か東京に稽古に来てもらったので、その折に観世能楽堂を借りて稽古してあげたかったんですが。。あいにく舞台のスケジュールはことごとく埋まっていて、とうとう当日を迎えるまで実際に自分が立つ舞台の感触を確かめることはできませんでした。そこで当日は早めに楽屋入りしてもらって、開演前の舞台で稽古、というより簡単な打合せというか 最終確認だけをしてもらって、あたふたと装束を着けることになりました。

それなのに、初めて立つ能楽堂の舞台に緊張するでもなく、よくまあ稽古の成果をそのまんま舞台に再現できるもんだ。感心です~

一方この日の ぬえは大忙しでした。もう汗だくになりながら子方の装束を着け、うわっと、もうすぐ開演時間だ!ちょ、ちょっとこのまま待っていてね、と上等の袴に着替えて自分のお役の仕舞『誓願寺』を勤め、すぐにまた常用の袴に着替えて子方の装束の着付をもう一度手直しし、『嵐山』が開演すると作物の桜立木を舞台に出し、前シテが登場すると絶句に備えてずうっとシテの文句を口の中で謡いながら後見を勤め、中入ではシテが捨てた萩箒を引き、楽屋に戻って出番を待っている子方に何か不都合や故障がないか調べてまた装束を整え、間狂言が終わるとすぐさま桜の作物を引き、子方の登場には幕内でこれに付き添い、子方が舞台に入ったら、型を間違えたり、事故が起こる用心のために後見座に控えて見守り、後シテが登場したら楽屋に戻って子方が退場してくるのを待ち受け、ついで後シテの退場もお受けして、終演後に役同士が挨拶を交わすために手早くシテの面を外して、子方にも各役に挨拶をさせてようやく装束を脱がせ、そうしてホッと安心しているのも束の間、もう一番の能『藤戸』の地謡に出演しました。もう一日中走り回っていた。。いや楽屋では走ってはいけないので、一日中競歩をしていた、そんな感じの一日でした。

能の後見には主後見(おもこうけん)と副後見の二種があって、主後見はシテの装束を着付けたり、シテに事故が起きたときに対処するなど、シテの世話をする役目で、副後見はツレや子方の世話をしたり、舞台に作物を出し入れするなど、どちらかというとシテ以外の役を担当したり雑用をこなしたりします。今回の『嵐山』では ぬえは副後見のお役を頂きましたが、おかげさまで子方の面倒をみるのに専念できました。この曲では舞台上で主後見が仕事をすることはほとんどなく、副後見が立ち働く場面ばかりに見えますが、もちろん主役たるシテが気持ちよくお役を勤めるための補佐をする主後見の方が大変なのは言うまでもありませんが。

それにしても。。自分ではない他の演者がシテを勤める舞台に、自分が教えた子方を出演させる、というのは 本当に神経がすり減ります。どんなに稽古を重ねていても、やっぱり子方は子ども。なにが起きるかわかりません。極端に言えば、舞台上で頭が真っ白になって何もできなくなり、立ち往生して泣き出す、って可能性だって完全に消し去ることはできないのです。それが自分がシテを勤める舞台であれば、こういう大失敗が起こっても(お客さまへの責任は別として)自分の中では最後にはなんとか「諦め」がつく。しかし他人さまの舞台を台無しにしてしまっては。。「ゴメンなさい」じゃ済まないです。自分が子方を演じたのではないけれど、能楽師としての資質を問われる、と言っても過言ではあるまい。

今回はその意味でも良い舞台に仕上げることができた、と ぬえは思います。ようやく肩の荷が下りました~

(続く)