ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

お弟子さんと伊豆旅行~(その1)

2010-10-06 00:37:53 | 能楽

日曜~月曜にかけて、東京近郊の ぬえの謡の生徒さん数名と一緒に伊豆旅行に行ってきました~

謡会も兼ねて、温泉に入って~、宴会して~、観光もして~、と楽しそうな旅行ではありますが…でも伊豆に行く機会には子ども能の稽古も進めておかなければイケナイわけで…全体のスケジュールを考えると、子ども能の稽古は午前中から始めて、午後から謡会、という予定になります。う~ん、としばし考えて、子ども能の稽古を朝9時から始めることにしました。すると東京を出発するのは朝5時…まあ、最近は早朝出発も慣れてしまいましたけれど。

さて朝からまずは子ども能の稽古。先日のプレ公演で一応の成果は挙げた子ども能ですから、あとは洗練させてゆくのみ。それから地謡の子どもたちにはプレ公演で仕舞がよくできていたので、新曲の稽古を始めました。こちらも大体の形はついてきました~。いや~やっぱり記憶力がよいわ~。若いってすばらしい。その記憶力を少し ぬえによこせ~

そして、再来週の17日にみんなで謡を奉納しに行くので、その稽古です。伊豆の韮山には「願成就院」という名刹がありまして、そこで子どもたちが 子ども創作能の一部の謡を奉納するのです。

じつはこれ、もう3年目になる ぬえの企画でして、信仰は持っていないけれど「信心」は持っている ぬえならではの発案です。学生時代から能に親しんでいる ぬえではありますが、当時は「結局…宗教劇だよなあ、能って…」と思って、どうもそういうモノは苦手だったので、能の魅力にはハマりましたが、宗教性には目をつむりながら鑑賞していた、というか。ところが、いざプロとなってこの仕事をしていますと、目に見えない力の存在は否が応でも視界に入ってきます。そして舞台には神様も、魔物も住んでいる事に気がついたとき、そういうものを蔑ろにしちゃイケナイんだなあ、と心から思ったのでした。特定の宗派のような信仰は持っていませんが、ぬえは寺社には敬意を払うようにしていて、伊豆でも折に触れ参拝しています。

そんな事もあって、ある時気がついて、子ども能の出演者と一緒に本番の舞台の前に地元の寺社に参拝して成功祈願をする事にしたのです。ひとつには成功祈願ではありますが、もとより子ども創作能は地元に伝わる民話や歴史的な事件を題材にして台本を作ってありますので、登場人物のお墓とか、ゆかりの地、というものもあるワケです。そこに参拝して、ご住職さまに歴史のお話をして頂く。子どもたちには、創作能を通じて地元に伝わる物語を演じているんだ、ということを実感してほしいし、併せて郷土愛みたいなものも醸成できればいいな、と思って、このようなイベントを企画したのでした。

「願成就院」は伊豆の国市きっての名刹でして、なんと運慶の作になる仏像が5体も安置されています(いずれも重文)。そうしてこの寺は頼朝の舅に当たる北条時政が建立し、その墓も境内に残されています。今回の子ども創作能『伊豆の頼朝』は、まさに伊豆に配流された頼朝が時政らの助けを借りて平家打倒のために挙兵した事件を扱ったもので、願成就院はその歴史を実感できる貴重な場所でもあるのです。

いや、本当は願成就院はもっとドロドロした事件の舞台でもあるのです。それは参詣の機会にこのブログで紹介させて頂こうと思っていますが…そうして子ども創作能では頼朝をヒーローとして描いた ぬえではありますが、そんな暗部も含めて子どもたちにはこの機会に歴史を実感して欲しいと願っています。

さてタイトル画像はその参拝の際に『伊豆の頼朝』の一部を連吟することによって仏様に奉納し、ご加護を頂くための稽古です。ん~もうすでに絵になっていますねえ。

こうして朝からの稽古は順調に終了して、午後からは東京から集まってくださった ぬえのお弟子さんが数人、伊豆を訪れました。これから伊豆で初めての謡会です!