ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

子ども能…お揃いのTシャツが完成しました~(その1)

2010-10-29 12:51:43 | 能楽
もう来週に迫った伊豆の子ども能ですが、このほどユニフォーム? のTシャツが出来上がりました!

このTシャツの制作については kyoranさんという方の、まさに献身的なお手伝いがありました。この事につきましては後日 詳細にご報告致しますが、まずは出来上がったTシャツを見てください!

子ども能とTシャツ…じつは長~い歴史があるんです。もう11年前…まだ町村合併もしていない頃の当地で始まった薪能と一緒に「子ども創作能」もスタートをしました。その時にイベントのスタッフのために制作されたのが、いま子どもたちが着ている、通称「薪能Tシャツ」なのです。先日、その制作をした印刷屋さんを訪ねましたが、当時は100枚以上作られたのだそうです。

その後薪能はずっと公演を続け、三つの町が合併して「伊豆の国市」が誕生したのちもそれは続いて、子ども能も能楽師が演じる能や狂言の、いわば前座のような形でずうっと上演を続けてきました。スタッフのTシャツも何回か補充はされたでしょうが、「子ども創作能」に出演する子どもたちにも毎年Tシャツは配られていたようです。もっとも ぬえだけは毎年もらえずじまい。当日は、もうバタバタと楽屋を行き来していますもので、終演後に実行委員会に顔を出しても「え? Tシャツ? もうXLしかないですよ」なんて言われてました。(^◇^;)

ま、そうこうしているうちに、ぬえも薪能の前日に「明日は忙しいから、あらかじめTシャツください」と言う知恵がついてきまして、ようやくTシャツを手に入れたのでした。(遅)

でもねえ、当時はまだ子どもたちはTシャツをもらって喜んでも、公演当日にもらって おみやげになる程度だったと思います。ぬえも同じようなものでした。そのうち、スタッフの方が気を利かせてくださって、公演の前日とか、最後の稽古日とかにTシャツを配ってくださり、それ以来子どもたちは薪能の当日に、同じTシャツを着たスタッフに混じって、この「薪能Tシャツ」を着て集まるようになった…そんな経緯だったと思います。

ところが3年前ぐらいかなあ、様子が変わってきたのは。もう長いこと子どもたちの稽古をつけていると、自然に仲良くなっていきますし、その中には小学校の低学年の頃から「子ども創作能」に出演していて、最初は地謡から…そしていつかは主役をやるんだ! と、成長していく子どもたちの姿にも喜びを見いだします。

いや、子どもたちとのお付き合いの中で、ぬえは本当にいろんな経験をしましたよ。喜びも多いけれど、つらかった事も数知れないです。子どもをお役から降ろしたこともあるし、子どもの前で泣いたことも、成果が挙げられなかった事でお母さんに泣いてお詫びしたこともあります。

そんな中で、ふと ぬえは気づきまして、ただチャンバラを楽しむだけの「子ども創作能」でいいのかな? と思うようになりました。「子ども創作能」は能の形式は踏んでいても、あくまで創作舞台ですので、本物の能面や能装束を着せるのではなくて、多くはお母さんの手作りの装束や道具だったりします。そして小学生が演じるのだから、繊細で優美な曲よりも、刀で斬り合うような、動きの激しい曲である方が良いでしょう。そこで台本も、地元に伝わる民話~勇者が大蛇を退治した話とか、それから当地が歴史の深いところなので、北条氏の逸話とか、また今回のような頼朝の挙兵などを題材にして作っています。こうしているうちに、どうも能や日本の文化を、子どもたちが感じながら舞台を演じているのか、それとも、舞台の上で飛んだりはねたり、そういうアクション劇として舞台を楽しむだけで終わってしまう子もあるのではないか?

こう思って、稽古の機会に子どもたちと一緒に、いろんな体験をしてみる事にしました。