ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

「路地裏」…「学会レセプション」…3度の獅子

2011-09-17 01:06:51 | 能楽の心と癒しプロジェクト
今日は前述の【路地裏 de 狂言】特別公演『日本の心/伝統の技』第1回 ~能楽の心と癒しを被災地へ~ という催しでした。

いうなれば「能楽の心と癒しを被災地へプロジェクト」としての旗揚げ公演だったわけで、それにふさわしく、突然の告知、平日の昼間にもかかわらず、このウワサを聞きつけた…のかどうか、あまたの老若男女が…会場付近を通行なさり、押すな押すな…の通勤時間とはまた違った趣きの、大行列…のアリんこさんも寄ってらっしゃい見てらっしゃい。

いやいや空席を除いては満員のありさまでありました。こういうのを落語会なんかでは「アメリカン」なんて言いますね。(^_^;) 収益は いちまんえん。でも、やはり賛同してくださる方があってのことで、大変ありがたく思っております。会場には某囃子方も、わざわざ奥様をお連れになってご来店。あとで伺えば、やはり震災が心にキズになって残っておられる、募金はしたけれど何か空虚に思う。何かがしたくて、それでお出でになったとのことでした。みんな苦しんでる。天災だから誰を憎むこともできないけど…罪つくりです。

そうして ぬえはパシフィコ横浜で行われた東北大学が主催となる国際学会「第34回神経科学大会」のレセプションに出演しに参りました。経緯については前述もしましたが、当日配られた学会参加者向けのフライヤーに ぬえのご挨拶を載せて頂きましたので、こちらをご参照ください。

「平成21年(2009)お誘いを頂きサイエンスカフェにて大隅典子先生と対談したのがご縁で今回の「第34回神経科学大会」に華を添えさせて頂くことになりました。
今回の上演にあたってはいずれも「祝言~めでたい能」を主眼におき、また激しい動きの能を選びましたが、これは東日本大震災に対する思いをこめての選曲です。(ぬえ)はこれまで2度石巻市の避難所を訪問し、掃除などのボランティア活動にあたったほか、この8月15日(お盆)には仲間の能楽師とともに、今回上演します「石橋」を避難所で演じました。能は古来 鎮魂のため、また邪気を払う儀式としての意味も持って演じられており、今回これらの能を舞うことで、大隅先生が震災の困難を乗り越えてこの「神経科学大会」を開催されたことに敬意を表し、またこの大会が復興のひとつの契機となりますよう、祝福の意味をこめて勤めさせて頂きます。」

ついでながら『石橋』の解説にはこんな事を書かせて頂きました。

「祝言性では能の中で随一の曲です。登場するのは霊獣の獅子で、文殊菩薩のお使いです。細い天然の石の橋の上で、咲き乱れる牡丹の花に舞い狂う獅子の様子を表した能で、激しい動きが印象的ですが、じつはその向こう側に広がる静寂な文殊菩薩の浄土を逆説的に描いた曲。囃子も舞も能の秘曲として大切に演じられております。」

『石橋』は、このたびの震災の被災地に巣喰う邪気に対抗するには最大の効果があるでしょう。まさに被災地で上演することこそふさわしい。こういう「強さ」と「祝言性」が同居するのは日本人独特の感覚ではないかな。そのうえ『石橋』には文殊菩薩の「清浄」「静謐」「慈愛」まで描かれている…スゴ過ぎです。日本人。

この日、ぬえは「路地裏~」2回公演と、こちらの学会レセプションを合わせて、1日に3度も獅子を舞うことになりました。これはさすがに ぬえにも初めての経験で、さすがに体力が続くか心配したのですが、どれも本格公演ではなくデモンストレーションだったので、なんとかクリア。…それどころか最後に演じたレセプションでの上演が最も出来がよかったような気がします。

そして!

このレセプションで「能楽の心と癒しを被災地へプロジェクト」の活動に対して募金のお願いをして頂いたのですが、

なんと収益は 53,939円! でした!

これなら、活動資金として活用して頂くほか、残金は現地に駐留するボランティアにも気兼ねなくお願いするかも。

じつは「能楽の心と癒しを被災地へプロジェクト」が団体として発足したのが つい2~3日前だったので、東北大学の大隅先生に この団体の活動支援としての募金のお願いを、レセプション会場でお願いしたのも、つい一昨日だったのです。ところが大隅先生は あれよあれよと関係部署に指示を出して、なんと当日には2カ所にだったか、募金箱を用意して設置してくださったのでした。

主催者に会場での募金の呼びかけをお願いをした ぬえ家としましては、募金箱は自作して持参するのが、これ常識。そんで ささやかな募金箱を作ってみたのですが…



これ、不要だったのですね~