ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

第13次支援活動<気仙沼・石巻>(その6)機材搬入とセッティング

2013-05-10 02:14:28 | 能楽の心と癒しプロジェクト
リアス・アーク美術館で初めてお目にかかったスタッフの方々。。ボランティアで参加してくれるというのに、ぬえは最初のミーティングで「あ、そうでしたっけ?」「あ~、間違っちゃった」は通用しません、みたいなクギを刺しました。舞台前の ぬえは恐い顔しているそうだけど、まさにそんな感じだったでしょうね。



まあ、それほどこの「星と能楽の夕べ」公演には意気込みがあったし、事前に入念に作り上げてありました。半年前に石巻で上演した同じ催しよりも数段パワーアップして、ぬえとしても自信作と言って良いものだったのです。ところが、PCの星空を投影したり、オープニングでDVDを流したり。また照明を微妙に使ったり、音響もBGMあり星空解説あり、関係者のご挨拶あり、終演後のカーテンコールあり。。機材を駆使しての上演でありながら、その機材操作を ぬえはできないんですよね。開演よりずっと前から装束を着けているから。。

プロジェクトの中でこういう機材ハード担当は笛のTさんで、その知識や技術は さすが理系能楽師(笑)。なんたって高校時代は部活が「無線部」で、ハンダごて駆使していたそうですから。あ、そういえば鉄塔マニア。。むにゃむにゃ。



いえね、Tさんのスゴさといったら、今回の公演のために、ぬえが買った中古の電子ピアノを改造した、というだけでも驚くに値すると思う。石巻では会場が教会だったために、アップライト・ピアノが備え付けられていて、それを使えばピアノ演奏の部分はカバーできたのですが、気仙沼の会場は美術館で、その中の視聴覚室のようなお部屋を提供頂きました。設備は公演には十分なものが完備されていたのですが、さすがにピアノはなかったのです。

ピアニストとして出演をお願いしているMさんは、持ち運びに便利な簡易キーボードを持参する予定でしたが、鍵盤の数が足りずに、工夫しながら演奏するそう(このフレキシブルな感じが良いですね。被災地で活動をされているご縁から ぬえたちと一緒に活動しているのですが、ピアノがない会場ではこの簡易キーボードで演奏するんですって!)。。これを聞いた ぬえは、ん~~、と考えて、88鍵で、タッチもアコースティックピアノと同様に重い電子ピアノ。。でも時代遅れで安い中古を、この日のために購入したのでした。

あ~、ところが。ACアダプタが欠品していたのですが、代替品を探しても どこにもない!。。Tさんに相談したところ、ある時期に規格が替わったのだそうで、ぬえが買った電子ピアノはそれ以前のタイプだったのですね。あ~、後の祭り。。と思ったら、Tさんは ぬえ家に来まして、あれよと電子ピアノを分解すると、ハンダごて片手に改造を始めました。へ~~、と見とれているうちに作業は終了、無事にACアダプタが通電して、そのときに初めて ぬえ家でピアノは再び響きを取り戻したのでした。

話は横道にそれましたが。。こういうわけで、被災地での活動では 装束が着いて身動きが取れない ぬえの分、Tさんは仕事が倍増するのが常です。司会もやり、そのマイクが必要な場所なら機材のセッティングもTさん担当。上演中は笛を吹き、終演後はまた ぬえが装束を脱ぐまで再び司会に戻り。。無言で登場して笛を吹き、また無言で去っていく方がどれだけカッコいいかわかりませんが、プロジェクトの活動ではやむを得ずTさんは、こうした役を引き受けてくれるのです。ところが今回は会場のレイアウトから考えてそれは不可能、ということがわかりました。今回の気仙沼「星と能楽の夕べ」公演でもピアノとPC以外の機材はほぼすべてTさんの所蔵品が活躍したのですが、それらのオペレートは、今回集まってくださったスタッフにお任せするしかありません。機材の操作方法の習熟、上演中の操作の順序やそのタイミング。。正直に言えば、ぬえはここが一番心配だったのです。

この公演について ぬえが頭の中で作り上げてきたイメージを、いかにスタッフに伝えるか。。もっと言えば、ぬえのこの公演に賭けている意気込みに同調して、共有してもらって、一緒に作り上げていけるか。。これを伝えるのが、この日のミーティングでした。そのために前述の ぬえの厳しい言葉になったのですが、この日もスタッフの中には、急な用で到着できず、翌日の公演当日にようやく全員が集まることになったり、ボランティアのスタッフには申し訳ないですが、ぬえの苛立ちはつのっていました。だって。。ひとつ間違えば台無し、ですから。そうして、過去に意識の低いスタッフさんに公演をぶち壊された経験も、ぬえには何度もあるのです。。







この日はスタッフさんが揃わないこともあって、機材搬入とチェックのみ、リハーサルは 渋々翌朝に延期、ということになったのですが、なんとなく照明と音響だけでも、リハーサルじゃないけれども、手順だけはやっておきましょうか、ということになって、簡易のリハーサルが始まりました。。これが ぬえのスタッフさんへの印象をガラリと変えた。。これなら。。この人たちなら。。行けるかもしれない。。