10年後に農村は存続できるのだろうか?
そんな危機感を抱く関係者の方は多いのではないかと思います。だって、農業就労者の高齢化は目を覆うばかりですし、政府の示す大規模化が可能な地域なんて限定的。
僕は、正直そんなに心配はしていませんでした。その訳は、若者を中心としたトレンド変化と、将来必ず来るであろう食糧問題の逼迫化で、自給的農業が広がるだろうという希望的観測。しかし、明確な処方箋を持っていたわけではありません。
欧州に広がる豊かな農村風景
語られる危機感や、僕の考える希望的観測に明るい展望を開いてくれたと信じられる提案に出会いました。
離島の公務員から一転、出雲の生姜農家に転身した方から、今春一読を勧められた、松尾雅彦著「スマート・テロワール」で提案されている考え方です。
フランスやドイツ、イタリア、イギリスなど、ヨーロッパの国々でも、わが国同様、30年前ほど前に崩壊の危機に瀕した農村地域、かの国々では、見事に再生し、素晴らしい農村地域となっていると。
そういえば、十数年前に視察等で訪れたヨーロッパの農村には、とても素敵な景観が広がっていました。
一方、わが国では、農村地域に明るい未来を想起させる素晴らしい景観が残され、作られているのでしょうか。
新しい自給圏構想~スマート・テロワール
契約栽培で北海道や九州の農業を支えた経験を持つ、元カルビー(株)社長だった著者の提案、スマート・テロワールとは、人口規模40万人程度の新しい自給圏構想。
僕も、地域自給をどう進めるかが大切だと考えてきましたが、著者の提案は具体的。
その一番のカギは、ゾーニングに基づいた水田から畑地と牧野への思い切った転換。
転換した畑では、輸入に依存した小麦や大豆、飼料用トウモロコシなどの輪作栽培や地域にあった作物の栽培と、牧野での豚などの自然放牧。
栽培した作物や家畜は地域内で加工し、地域内での自給を高めたり、特色ある食の提供で交流人口増加を目指す。余剰分を大都市に供給する。
フードマイレージは低くなって地球環境にも優しいし、身土不二的にも人に最も優しい。そして、地域内循環が可能になれば、地域経済は潤い、自然と自給率も上がる。
島根の農村の未来は?
良いことづくめのような提案ですが、補助金行政に馴染みすぎた農村で、しかも、瑞穂の国という思い入れ。自力に近い形で進めようと思えば相当の覚悟と長期戦略が必要です。
覚悟を持った首長や議員、農業者、商工業者などが必要と思いますが、著者は、覚悟を持った人が3人いればできると書いています。
今、「日本で最も美しい村」を目指す動きが始まり、全国で14の自治体が加盟し取り組んでいます。
島根にも、邑南町や旧柿木村など、先進の取り組み事例がありますが、スマート・テロワールのように、さらに高みを目指した取り組みに進化できたら。
中山間地域研究センターを擁する島根、覚悟と戦略次第では揺れる人口目標を凌駕することも可能かもしれません。