いろはにほへとちりぬるをわかよたれそつねならむうゐのおくやまけふこえてあさきゆめみしよひもせす
弘法大師空海のいろは唄である。
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「いろ」は色即是空の色。現象界のものもの。色界は色界の仕来りに拘束される。花の盛りに来れば芳香を放つ。だが我が世の春は長続きがしない。無常の風に晒されることになるが、こうした有為転変の世界は奥が深いもので、それを見通してここを超えて行く道もついている。この奥深い山々を越えて出ると見ていた夢が覚める。浅はかな夢に右往左往していただけなのだ。此処は仮寝の宿。空の世界。悲しみ楽しみに酔いつぶれるなかれ、だ。
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無常を常とすべし。われわれは変化して止まない世界に生きているのだ。しかし、ここで打ち止めではない。此処は中途。先へ先へその先へと続いている。いのちの旅は永遠なのだ。永遠の地平にやがて成仏の地が見えて来る。仏教の目指すゴールは成仏である。わたしが仏と成るということだ。仮寝の宿ではない真如界で仏と成る。それまでは無常の色界に惑いに惑うこととなる。
いいじゃないか、惑いに惑っても。「終わりよければすべてよし」の諺もある。人間の終わりは成仏である。仏と成ることだ。
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でもね、ほんとうは仏と成ってからもいよいよ進化を遂げて行くのだけどね。一つの次元が終わるというだけで、次の次元に位上がりをするはずだ。そこまで到達したらどうなんだろうね。いまの色界のさぶろう、苦しみ多いさぶろう、迷いばかりのさぶろうがどんなふうに思い出されていくのだろうね。その日が楽しみ。
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などと今夜さぶろうは思った。他愛もない。もう寝よう。夜も更けた。