年酒酌む二タ間続きの奥座敷
星野 椿
西日本新聞正月号、読者文芸選者作品集より
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奥座敷がある家だから豪邸か、ここは。しかも二タ間続いている。襖を開ければ大座敷になるだろうが、襖は半分だけ閉じてある。ここでひっそり年酒を酌んでいるのは、誰と誰だ?
おんなとおんなか。おんなとおとこか。お隠れか。お忍びか。
二タ間もあるから、お忍びの竜と竜かもしれない。ほんとうは大空に舞い上がって晴れの大吉踊りを舞っていなければならぬところだが、この2匹の竜は、そうするよりは酒を飲んでいたくなったのだ。なにしろ正月に振る舞われる酒は上等だ。特上だ。酒を酌み合っている内に、眠くなって、大広間の奥座敷で二匹の竜は鼾を掻いて寝てしまった。
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わたし映画の中で、お忍びをしてみたい。奥座敷とやらで、偲んでいる人とちっぽり忍び逢いをしていたい。いやだよ、またぞろ煩悩の火が燃えだしたよ。正月早々だというのに。
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元に戻って、俳句の選者の作品だから、名句であるに違いない。ひっそりひそひその場面設定がいいのかな? 俳句の奥は奥座敷に通じている。そこで俳人達が酒を酌んでお正月している。
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作者星野椿さんは高浜虚子の御子孫。お母さんは星野立子。虚子の娘さん。俳人一家だ。