「三条仏壇」
Description / 特徴・産地
三条仏壇とは?
三条仏壇(さんじょうぶつだん)は、新潟県三条地方で造られている仏壇です。金仏壇の一種で、格調高さと品格に定評があります。
三条仏壇の特徴は、基本に忠実な宮殿造り(くうでんづくり)と優れた手打ち金具、美しい塗りです。宮殿造りとは寺院建築を模した宮殿デザインのことで、三条仏壇の場合は本山・別院を模して造られています。
また、三条市はもともと金物産業の町として栄えていました。金物で培った技術は仏壇の金具作りにも生かされており、見事な出来栄えとなっています。
なお、三条仏壇の構造は、京仏壇に近く宮殿は基本に忠実造られています。木地は一切くぎを使わない「ほぞ組み」、柱から柱へ渡される長押(なげし)は、「弓形長押(ゆみがたなげし)」または「わらび型長押(わらびかたなげし)」を用います。宮殿造りは、「枡組み(ますぐみ)」もしくは「肘木枡組み(ひじきますぐみ)」です。
History / 歴史
三条仏壇の産地である三条は、「仏都三条」という呼び名があるほど仏教が盛んで信仰の厚い土地でした。江戸時代初期には金物の町として有名だった三条ですが、江戸時代中期には仏壇の産地となります。
仏壇の生産が始まったきっかけは、大規模な寺院が多数造られたことでした。1299年(正安元年)には法華宗総本山の本成寺が、1690年(元禄3年)には東別院(ひがしべついん)とも呼ばれる真宗大谷派三条別院(しんしゅうおおたにはさんじょうべついん)が造営されます。
特に影響が強かったのは、真宗大谷派三条別院です。造営のために京都から呼ばれた宮大工らが呼ばれ、彼らの指導のもと、三条の職人が多数参加しました。その後、寺院を中心に浄土真宗が広まり、仏壇が作られるようになります。
信濃川のおかげで原材料などの輸送がスムーズだったことも、仏壇作りが盛んになった理由の一つと言えるでしょう。
*https://kogeijapan.com/locale/ja_JP/sanjobutsudan/ より
職人にしかできない技で祀る 三条仏壇
あまりにも当たり前に存在しすぎて、なかなか気にとめることがない仏壇。だがちょっとのぞいてみると、そこはどこまでも奥の深い世界。ここではその仏壇の金具の部分に焦点をあて、金具師の田中さんと塗師の山浦さんにお話を伺った。
金物の町、三条の特徴はやっぱり金具
仏壇の名産地、新潟県。伝統的工芸品の指定を受けた3つの仏壇の一つがこの三条仏壇だ。三条といえば金物で全国的に有名な町。そんな三条で江戸時代から栄えてきた仏壇は、やはり金具に趣向がこらされている。「仏壇の金具には、扉の外に見える外金具と、なかにある内金具があって、それを一個一個別々に作っていくんです。」と金具師の田中さん。小さいものは5センチくらいから、大きいものは30センチくらいまで、大小様々に異なる形の金具を見せてくれる。「金具師はけっこうやることが多いんです。まず金具の柄、つまり絵が書けなきゃいけない。それから彫金技術、あと化学の技術もいるんです。最後は金具に色をつけなきゃいけないからね。」
100本あってもどれを使うかすぐわかる
さて、この金具部門、具体的に作業はどのように進められていくのだろうか。まず下絵に基づき寸法をとり、銅版に型付けをする。「一枚の銅版の上にどう組み合わせれば一番ムダなく取れるのか、それを考えて線を引くんです。」その後、一つ一つの金具のふちを「ヘリとりタガネ」で彫っていく。田中さんのすぐ横にズラリと並ぶ引き出しをあけると、先端がゆるい半月状のカーブになった「ヘリとりタガネ」が山のように収納されている。この100本をゆうに超える「ヘリとりタガネ」の中から、下絵に描かれたカーブと全く同じものを一本探し出す。「たいへんそうに見えるでしょうけど、実はそうでもないんですよ。何年もやってるとたいして探さなくても、あ、このカーブはこいつだなってわかるんです。自分で作ったものですからね。これ、ヤスリのダメになったのとかで作るんですよ。」金具師さんがつくるのは金具だけでなく道具もだったというわけだ。その仕事の幅の広さには驚きを隠せない。
練習すりゃできることだけど、熟練しないと仕事にならない
ヘリをとり、内側に鉛筆で模様を書いたら次はヘリの中を彫る。左手にタガネを持って、銅版の上を金槌(かなづち)でトントントントンたたいていく。2ミリくらいの小さな点を、連続的に絶え間なく打ち、線をつくり出していく。柄を彫ったら残った隙間は魚々子(ななこ)で埋める。「これは丸い点が、魚の子のようにきれいに並んで入っているから魚々子って言うんです。これがけっこう技術がいるんですよ。ある程度のスピードでしていかないとだめだから。」このあとはヘリを切り、形を整え、彫金終了。そして金具の使用場所に合わせて酸化や硫化で色をつけて完成だ。
本当にいい仕事で違いを明らかにしていきたい
それにしても仏壇の金具一つでこれだけの手間。手作りの仏壇の値が張ってしまうのもうなずける。「仏壇なんて手間賃のかたまりみたいなもんですよ。」と塗師の山浦さん。「最近は金具もプレスで作れるようになってコストが下がっているんです。中国からの輸入もかなりありますからね。」伝統工芸のどの業界にも広がっているコストダウンという名の時代の波。時の変化とともに変わっていった仏壇業界を見続けながら、山浦さんはこう語る。「安いものを作ろうとしてみんながんばってきましたが、工場生産にしたって工賃の安い国にはとてもかなわない。コストの面では中国にかないっこありません。この時代、もう差別化をはかって生き残るしかないと思うんです。いい仕事をして違いを明らかにしなきゃダメなんですよ。それにそういう需要も絶対にあると思いますしね。」
三条は個人でやってるからこそ面白い
そんな職人もののよさとはオリジナリティだ。「プレスだとそれに合わせて木地をつくるようになるんです。それだと独自性ができないし、好き勝手にはつくれない。うちらはオリジナルを作りたいわけですからね。」
小規模な産地だからこそ、職人個人の意思できちんとした仕事を貫いてゆける三条仏壇。
「仏壇には伝統工芸が集約されている」という誇りをもつ山浦さん。職人芸の集約だからこそできる、手作りのいいものが見直される時代に向けて「日の目を見るときがあっても職人がいなくちゃおしまいです。職人の仕事は分業制。どれ一つ欠けても成り立ちません。そんな時代が来るまで自分ががんばれるといいですね。」
職人プロフィール
田中裕輔
金具師の田中裕輔さん。
お父さんも金具師で、中学の頃から手伝っていた。自宅の中に田中さんの工場がある。
塗師の山浦日出夫さん。
山浦さんもお父さんが塗師だった。山浦さんの仏壇店には素晴らしい作品が並んでいる。
こぼれ話
仏壇、それはとってもエコロジカル
仏壇とエコロジー、一見何の関係もなさそうですが、仏壇を「拝む」ではなく「つくる」という視点で見てみると、実はとても環境にやさしいつくりなことがわかります。仏壇は日本に古くからある自然素材でできていて、しかも完全にリサイクルできるのです。「家電リサイクル法」なんていうものができるずっと前から日本に伝わっていたリサイクル。仏壇は日本に永く伝わってきたエコロジカルな精神を改めて教えてくれます。
<素材編>
漆
仏壇全体に塗る漆は天然の塗料です。コーティング、色つけ、金箔等の接着剤としてなど、1つで様々な役割を果たしています。漆は一般的に手塗りされ、本当に必要な分だけつかわれるので、スプレーと違って、ほとんどロスがありません。湿度が高ければ高いほど乾くという、湿気の多い日本に非常に適した素材です。
銅
仏壇の金具に使われる銅。金具の型をとった後のクズは集めて売られます。捨てればゴミ、分ければ資源とはまさにこのことで、売ると年1~2万円にもなるそうです。型をとったあとの銅は不純物がないので質がよく、すぐに溶かして使われます。
タガネ
金具師さんの大切な道具、タガネ。これもまた溶かして、別の切り口のタガネをつくれます。また、使わなくなったやすりを溶かして作ることもできるそうです。
金
仏壇に貼られる金箔。金を貼る部屋に飛んだ少しの金箔を集めに来る業者さんも存在します。これもまた金以外の不純物と混じっていないので質が落ちません。
*https://kougeihin.jp/craft/0804/ より