風は東楡の木通りから

クリスチャンフルート吹きパスピエの愛する音楽、猫たち、薔薇の毎日

オーロラの彼方

2006-02-02 00:41:07 | Weblog
この時期になるとオーロラを思い出す。

6年前、私たちはアメリカで駐在員の家族として生活していた。父が胃がんの手術を受けるというのでアメリカから日本に一時帰国したのだが、父のがんはすでに手遅れの状態で余命は3ヶ月だった。1週間後、アメリカに帰らなくてはならなくなり、後ろ髪を惹かれる思いで日本を後にした。

その帰りの飛行機の中、父がいつまで生きられるのか、しばらく私が日本に帰ってともに最後の時を過ごしたほうがいいのか、子供の学校の事、また、不安症の強い長男にはパニックを避けるためにもこのことは絶対話せないとなどといろいろと考えていたときのことだった。

突然、「ただいま、アラスカ上空です。右側上空にオーロラがご覧になれます。」と機内放送がはいったのだ。

漆黒の闇とでも言うのだろうかその遠くで何か生き物のようにうごめく光の帯。その下では雪に覆われた大地。かすかに川があるのがわかる。ここでも人間の営みがあるのだろうが、そんなことは一切感じさせないモノトーンの世界。それは、人間が近づいてはいけないような、見てはいけないような怖いくらいの神々しさだった。その彼方には別の世界があるのではないかとさえ思わせるような・・・・。

父が死んだらこんなところにくるのだろうか・・・。
人の命はどこからきて、どこへ行くのか。人はなぜ死ぬのか・・・。

ふと、そんなことを考えた。

「天から与えられた命だと思ってね。」父はこういっていたことがある。書道家の父が自分の雅号(書道家の名前)を「天命」と変えた時の事だった。

それから3ヶ月後、父は死んだ。
命を与えられた天へ帰っていったのだろうか?
あのオーロラの彼方で父が笑っているような気がする。